偽聖女と虐げられた公爵令嬢は二度目の人生は復讐に生きる
「なんだ偽聖女じゃないか」
リシェルがガルシャと話すため王子の執務室に入るなり、ガルシャはリシェルに侮蔑の眼差しを向けた。ガルシャのリシェルを見る目は相変わらず冷酷で、取り巻きの貴族たちとリシェルのことを睨(にら)みつけてきていた。
けれど、ひるんでいる場合ではない。
リシェルは自分を奮い立たせる。
国の財政についてこのまま聖女の言いなりになっていてはだめだ。
今の状況を放置しておけば、国は立ち行かなくなってしまうだろう。
「殿下。財政の件なのですが」
「またマリアに実りの力を抑制させろというわけではあるまいな? 自分が聖女じゃなかったからといって、いい加減見苦しい」
そう言って一蹴される。
「殿下。話を──」
リシェルが言いかけたその時。
ばしゃり。
冷たい感覚と共にリシェルは水をかけられたと理解するまで数秒かかった。
「ああ、すみませんレディ。よろけてしまいました」
ガルシャの取り巻きのひとりが、グラスを持ったまま薄笑いを浮かべてリシェルに謝る。
まるで子どもの悪戯(いたずら)。貴族がやることではない。
このような程度の低い人間が国の実権を握っている事実にリシェルは目眩を覚えた。
「いえ、お気になさら……」
リシェルが答えたその時、急にばんっと扉が開く。
「殿下っ、大変です!! 南部にあるランジャーナ地区で反乱が起こりました!!」
騎士が慌てた様子で入ってきたのだった。
当然の結果だった。
聖女マリアに美しい街を見せようと、ガルシャは王都だけに富を集め、王都から少し離れた領地の困窮は放置したままだったのだから。
遅かれ早かれこうなっていただろう。地方の反乱にガルシャたちがざわめくさまをリシェルはどこか冷静な目で見ていた。なるべくしてなったことだと。
「何が不服なのだ! こんなによくしてやっているのに!」
ガルシャが歯ぎしりをし、きっとリシェルを睨みつけた。
バシンッ。
鈍い音と共に。気がついたら体が飛んでいた。
一瞬何が起きたのかわからずリシェルは呆然としてしまう。
「他領に不満が起こらぬように予算を組むのがお前の仕事だろう!! いったい何をしていた!!」
ガルシャの罵声で──リシェルは頬を殴られたのだとやっと理解した。
口の中に広がる血の味に、リシェルが呆然としていると、再びガルシャがリシェルに向かってきた。取り巻きの貴族もこれはいけないと判断したのか、ガルシャを止めに入る。
「とにかくこんなことをしている場合ではない! マリアに知られる前に反乱を制圧しろ!!」
ガルシャがリシェルを一瞥し部屋を出ていく。
ガルシャたちが部屋を出ていくのを見守って、リシェルは頬を撫(な)でた。
(冷やさないときっと腫れるだろうな──)
痛みに涙がこぼれる。ガルシャから暴力を受けたのはこれが初めてではないはずなのに、それでも屈辱で涙がこぼれた。
(私は何をしているのだろう。聖女だからと婚約者と引き離されて。けれどその聖女の啓示は間違いで、偽聖女呼ばわりされて)
どんなに意見を言っても全て嫉妬と却下され、責任だけは押しつけられる。
周りもどこか異常で、どんなに正しいことを主張しても意味不明な論理で非難される。
この国は異常だ。少なくともマリアが来るまではこんなことはなかったのに。
(帰りたい。あの人のところに──)
ポロポロ流れる涙をリシェルは止めることができなかった。
そしてそのまま床にうずくまるのだった。
リシェルがガルシャと話すため王子の執務室に入るなり、ガルシャはリシェルに侮蔑の眼差しを向けた。ガルシャのリシェルを見る目は相変わらず冷酷で、取り巻きの貴族たちとリシェルのことを睨(にら)みつけてきていた。
けれど、ひるんでいる場合ではない。
リシェルは自分を奮い立たせる。
国の財政についてこのまま聖女の言いなりになっていてはだめだ。
今の状況を放置しておけば、国は立ち行かなくなってしまうだろう。
「殿下。財政の件なのですが」
「またマリアに実りの力を抑制させろというわけではあるまいな? 自分が聖女じゃなかったからといって、いい加減見苦しい」
そう言って一蹴される。
「殿下。話を──」
リシェルが言いかけたその時。
ばしゃり。
冷たい感覚と共にリシェルは水をかけられたと理解するまで数秒かかった。
「ああ、すみませんレディ。よろけてしまいました」
ガルシャの取り巻きのひとりが、グラスを持ったまま薄笑いを浮かべてリシェルに謝る。
まるで子どもの悪戯(いたずら)。貴族がやることではない。
このような程度の低い人間が国の実権を握っている事実にリシェルは目眩を覚えた。
「いえ、お気になさら……」
リシェルが答えたその時、急にばんっと扉が開く。
「殿下っ、大変です!! 南部にあるランジャーナ地区で反乱が起こりました!!」
騎士が慌てた様子で入ってきたのだった。
当然の結果だった。
聖女マリアに美しい街を見せようと、ガルシャは王都だけに富を集め、王都から少し離れた領地の困窮は放置したままだったのだから。
遅かれ早かれこうなっていただろう。地方の反乱にガルシャたちがざわめくさまをリシェルはどこか冷静な目で見ていた。なるべくしてなったことだと。
「何が不服なのだ! こんなによくしてやっているのに!」
ガルシャが歯ぎしりをし、きっとリシェルを睨みつけた。
バシンッ。
鈍い音と共に。気がついたら体が飛んでいた。
一瞬何が起きたのかわからずリシェルは呆然としてしまう。
「他領に不満が起こらぬように予算を組むのがお前の仕事だろう!! いったい何をしていた!!」
ガルシャの罵声で──リシェルは頬を殴られたのだとやっと理解した。
口の中に広がる血の味に、リシェルが呆然としていると、再びガルシャがリシェルに向かってきた。取り巻きの貴族もこれはいけないと判断したのか、ガルシャを止めに入る。
「とにかくこんなことをしている場合ではない! マリアに知られる前に反乱を制圧しろ!!」
ガルシャがリシェルを一瞥し部屋を出ていく。
ガルシャたちが部屋を出ていくのを見守って、リシェルは頬を撫(な)でた。
(冷やさないときっと腫れるだろうな──)
痛みに涙がこぼれる。ガルシャから暴力を受けたのはこれが初めてではないはずなのに、それでも屈辱で涙がこぼれた。
(私は何をしているのだろう。聖女だからと婚約者と引き離されて。けれどその聖女の啓示は間違いで、偽聖女呼ばわりされて)
どんなに意見を言っても全て嫉妬と却下され、責任だけは押しつけられる。
周りもどこか異常で、どんなに正しいことを主張しても意味不明な論理で非難される。
この国は異常だ。少なくともマリアが来るまではこんなことはなかったのに。
(帰りたい。あの人のところに──)
ポロポロ流れる涙をリシェルは止めることができなかった。
そしてそのまま床にうずくまるのだった。