*夜桜の約束* ―春―

[30]追跡と障害 〈N♪〉

 秀成が連絡するまでの約三時間、男性陣はとにかく闇雲に『ベントレー』の目撃情報を聞き込んでいた。

 それでも何とか一つの繋がりらしき糸を手繰(たぐ)り寄せたのは、あの美しき『夫人』を妻とする鈴原だった。

「おーい、凪徒? 聞こえるか? 黒のベントレー・コンチネンタルGT見つけたぞ! 西隣の由倉(よしくら)市だ。ちょっとハッキリしないんだが、高岡ナントカって会社が所有してるって、主に社長が使っているらしい。この情報だけでもどうにか行けるか?」

 携帯の向こうはクラブらしき音楽と客達の声で騒がしい。

 それでも鈴原が伝えた内容は凪徒には鮮明に聞こえていた。

「サンキュ、鈴原(にい)! 詳細は秀成に検索してもらう。悪いけど引き続き他も当たってみてくれ」

 やっと小さな光明が現れて、凪徒と暮の顔にも少し明るさが戻ってきた。

 そこへ再びの着信音──秀成だ。


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