*夜桜の約束* ―春―
 特にこれといってあてもなかったが、高岡からの午後の予定の質問に、モモはドライブを提案した。

 余り天気が良いとは言えないものの、風もなく寒くもなく、出掛けるにはちょうど良い物静かな陽気だ。

 高岡も賛同し、運転手兼ボディガードのあの手刀の男性ではなく直々(じきじき)の運転を買って出て、しばしの父娘(おやこ)の時間を味わうこととなった。

「あの……お父様に運転させてしまって大丈夫でしたでしょうか?」

「ん? ああ、そんなこと気にしなくていいよ。遠くへ行くことも多いから雇っているだけで、本来はドライブ好きなんだ」

 薄曇りの街を走り抜け、やがてハイウェイの入口が見える。

「右へ行けば山、左へ行けば海が見えるよ」

「それなら海がいいです。しばらく海沿いの町での公演はなかったですし」

「そうかい? てっきり森に行きたいのだと思って、あのエアガンも持ってきたのだけど……」

「うっ、海がいいです! 断然海です!! お父様っ」

 ──やっぱりちゃんと説明しなくちゃ……。

 いつまでも付きまとわれるエアガンに、我が身を(うれ)うモモであった──。


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