眠りにつくまで
心配そうな彼に大丈夫だとわかってもらえるようににっこりと微笑もうと思うが、凍りついたような表情筋はうまく動かない。
それどころか‘大丈夫ですか?’と心配してくれる人がいることの方に心が動きそうで奥歯を食いしばる。
樹が亡くなった日以来、私の友人や家族からは、取り憑かれたかのように私は樹を盲信的に想い過ぎだと…好きなのはわかるが、一緒にいた日々だけの上に成り立つ未来はおかしいと…そういう風に言われていた。そう…言われていた過去だ。2年もこんな状態が続けば‘気が触れた人’だと感じた友人が離れていき、3年も経てば家族に心療内科の受診をすすめられ‘好きな人を忘れられないだけだから大丈夫’と断ると諦めとともに距離を置かれた。生存確認のようなやり取りはするが、それ以上の付き合いはない。
今、初めてしんどいと思っている…このタイミングで友人や家族から同じことを言われていたら私の受け止め方も違ったかもしれない。でもあの頃は受け入れられる言葉ではなかった。
だからここ数ヶ月の不安と一人で闘っているの…大丈夫ですか?なんて気安く言わないで。私が自分一人で乗り越えるべき壁だから。
「足元、気をつけて」
ふらっとした私から目を離すことなく声を掛けてくる彼は、声まで心配そうなトーンになっている。お願いだから…優しくしないでください。