眠りにつくまで
未来への一歩







両家の両親の顔合わせをし、光里が三鷹になることも確認した。双方の親の、年に1度くらいはこうして両家で会いたいという希望で毎年2月か3月に俺がどこかで場を持つと約束した。

3月3日に入籍というのが急ぎ足ではあったので、俺と光里の間に結婚式というものが全く想像できないままだった。彼女が友人とも離れてしまっているので、親と玲央たちだけを呼んで…とも考えるが、この春は光里にそれを楽しむ余裕はなさそうなのでゴールデンウィーク辺りでいいかと密かにプランニングする。

「忍の事務所な、決まったんだけど忍から光里に連絡あった?」
「ないよ。あと10日ほどで4月なのにどうなのかなって思ってた」
「思うよな。もう明後日から有給消化になって休みなのに」
「うん。どこ?あっ…ちょっと引っ付いた…身が割れちゃった」
「大丈夫大丈夫、どうせ割る」

俺は光里の作った味噌汁を入れながら、魚の塩焼きをグリルから取り出す光里に

「俺のオフィスに決まった」

そう伝えた。

「…俺のオフィス…聖さんと玲央さんのオフィス?部屋が空いたの?」
「そうじゃなくってうちが忍に間貸しする形」

ハセイチビルはワンフロアに区切りがなく、どの階も広いまま借りている。後藤税理士事務所だったら8人が働いているほど広さがある。ビルの最上階が壱の部屋というのも頷ける。入ったことはないが、このマンションより広いことは確実だ。壱のオフィスも8人分ほど椅子などが置かれているのは、気分を変えてあちこちで作業するためらしいが、おかげでいつ俺と玲央が行っても座るのには困らない。

「半分で十分なんだよ、俺たちも。忍の事務所にも十分で互いに経費削減ってとこ」
「お兄ちゃんが通うの?」
「車で40分ぐらいだろ。離婚してから5年間実家暮らししたから、また出ようかと思ってもいるみたいだけど、じいちゃんの家もあるからこっちに部屋を借りるのはもったいないかと悩んでるらしい。当分通いだな」
< 269 / 325 >

この作品をシェア

pagetop