眠りにつくまで






ランチと言っても、今は光里が母乳のことを考えて食べたがらないものも多い。神経質にならなくてもいいと言いたくなるレベルだが、彼女の根っからの真面目さも理解している。あと数ヶ月、光里の気の済むようにすればいいと、うちからそう遠くない生パスタが美味しいレストランで早めの昼食にする。

辛いものやオイリーなものを避け、シンプルなトマトパスタを選んだ光里だが

「美味しい。パスタが美味しいからシンプルな方が良いのかも…すごく美味しい」

半年ぶりの外食を楽しんでくれて安心する。聖斗のことが気になる様子だったら無理に連れ出しておくよりもパスタだけ食べて帰ろうと思っていたのだが大丈夫だな。

「買い物に行く?」
「うん、スーパーに…」
「そうじゃなくてショッピング。デートだからね?」

テーブルの上で光里の手を取り親指で甲を撫でると、少し頬を染めた光里が

「乃愛さんのお店に行きたいな…」

可愛い黒目がちの瞳をくるくる動かして言う。

「そんなところでいいの?」
「そんなところって…素敵な雑貨屋さんだよ。紫乃さんの持ってたエコバッグを私も買おうかと思って」
「エコバッグ?」
「エコバッグらしくないエコバッグ」
「そうか。欲しいものがあるなら行こう」

店を出る時にはまた光里の手を握り、車へ着くと助手席ドアを開ける。そして座った光里に被さるように腰を折って唇を重ねた。
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