眠りにつくまで





ザッハトルテやガトーショコラなどチョコレート系のケーキが好きだという光里は、カフェでガトーショコラをゆっくりと味わい、俺の珈琲と自分のケーキセットの支払いを自分がすると言った。大して食べていないのに、朝も昼も奢ってもらったからと言う彼女に‘ごちそうさま’と珈琲を奢ってもらった。

そして車を走らせ始めた今、彼女はまた眠っている。本当に限界だったんだな。

彼女に‘もう光里は一人ではいっぱいいっぱいで…そこで俺と会ったってこと。今日会えて良かった’と言ったが、それは彼女にとってのタイミングということではなく、俺にとっても‘会えて良かった’だ。今のタイミングでなければ、こんな風に気持ちを吐き出してくれなかったかもしれない。

その吐き出された言葉たちからは、光里がどれだけ真面目で一途でひたむきで実直かがわかる。そこまで思われる男は幸せ以外の何者でもないだろう。

光里を苦悩から救いたいという当初の思いに加えて、こういう女性に思われたいという思いまで生まれることに戸惑いはなかった。家が近いというラッキーなオプションを最大限に有効活用するべきだな。

しかし…熟睡じゃないか?道行く車体がスモールランプを光らせる中、このまま真っ直ぐ帰ればあと30分ほどなんだが…
< 46 / 325 >

この作品をシェア

pagetop