カッコウ ~改訂版

 私の不安を知らない孝明は前向きで、私は徐々に流されていく。お腹の子が孝明の子であることに賭けてしまう。茂樹とは2年近く付き合っていたけれど、そういうことは一度もなかったから。
 このまま孝明と結婚したい。子供も産みたい。そして温かい家庭を築こう。孝明と二人なら幸せになれる。だから孝明の子供だと信じよう。孝明の子供ならば、何も問題はないのだから。
 私は卒業前に結婚を決める自分に酔いはじめていた。しかも孝明は大手銀行員。友達が羨むような相手だから。心に残る不安は考えないようにしてしまった。
 妊娠を確認した二人は、両方の親に会いにいく。若すぎる不安はあるけれど、私のお腹に子供がいることは、すべての免罪符になった。
 私の卒業と同時に入籍。社宅が決まり次第、引越し。安定期に入ってから内輪だけの結婚式をすることに、二人の親達も納得する。
 就職を辞退した私は、茂樹に妊娠を伝えた。
 「産むの?それはまずいよ。」茂樹は私のことよりも自分の保身を考えている。
 「彼の子だと信じていますから。」妊娠を聞いたときの、孝明と茂樹の反応は対照的で。私の心はスーッと冷めていく。
 「俺の子供だったらどうするの?俺は責任取れないよ。」それでも逃げ腰で言う茂樹。
 「大丈夫です。彼の子供として育てますから。」もう二度と茂樹には会わない。自分はこれから孝明の妻として生きていく。私は心から孝明に感謝していた。お腹の子供は孝明の子だ。そう自分に言い聞かせて。
 3月末には住居も整い、私は孝明との生活を始める。つわりがあるものの、専業主婦の生活は快適で。私はゆっくりと家庭を整えていく。
 就職して3年目の収入は、決して多くはない。でも福利厚生がしっかりしている都市銀行だから、生活は思ったよりも余裕があった。結婚式は六月。近い親戚と職場の人への簡単なお披露目。私はこれからの幸せを信じていた。
 外から見れば、すべてが上手くいっているような二人。でも少しずつ膨らみはじめたお腹は、私を恐怖で包む。孝明が優しいほど不安は増す。絶対に孝明の子だと信じていても。






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