カッコウ ~改訂版

 家に戻っても、孝明は私に何も聞かない。いつもの休日と同じように子供達の相手を続けてくれる。いつもと同じ顔で。子供達が眠るまで私を問い質さない。大翔にも悠翔にも、同じように接してくれる。
 「大翔は誰の子供なんだ。」二人が眠った後で、孝明ははじめて私に問いかけた。硬く凍った表情で私を見つめて。
 私は何も言えない。長い沈黙の後、孝明はもう一度聞く。
 「大翔の父親は誰なんだ。」こんな時でも孝明は声を荒げずに静かに聞く。俯いたまま何も言わない私に、
 「どうするつもりなんだ、これから。」孝明の言葉は、矢のように私を刺す。
 「俺は大翔も悠翔も同じ様に可愛かった。自分の子じゃないなんて思ったこと、なかったから。どういうことなんだ。」静かに言う孝明の言葉は深く私に突き刺さる。傷付いているのは孝明なのに。
 「ごめんなさい。」震える声で、私はやっと一言答えた。
 「本当のことなんだね。みどりは知っていたんだ。信じられないよ。」孝明も頭を抱えて俯く。
 こんな時でも、子供達には同じように接してくれた孝明。夜は二人をお風呂に入れて。いつもと同じ父親でいてくれた。もう取り返しがつかない。
 「話してくれよ。大翔は誰の子供なんだ。みどりが言わないと、俺の気持ちが整理できないよ。」孝明は責めると言うよりも懇願するように言う。私はもう一度小さく
 「ごめんなさい。」と言った。
 「大翔の父親は誰なんだ?」孝明は同じ言葉を繰り返す。私は心を決めて
 「孝ちゃんと会う前に付き合っていた人。」と俯いたまま絞り出すように答えた。
 「みどり、ずっと彼氏いないって言っていただろう。」孝明は不審気に聞く。
 「彼じゃないの。奥さんのいる人だったから。」私は涙を流しながら答える。
 「俺と二股かけていたの?」孝明は顔を上げて正面から私を見た。私は首を振って
 「違うの。孝ちゃんと付き合い始めた時、別れたの。でも偶然会って。」と後の言葉に詰まる私に、
 「そのまま寝たわけだ。」と吐き捨てるように孝明は続けた。私はただ首を振り続ける。孝明の言葉を否定できないまま。
 「明日、埼玉まで送るよ。もうこのままは暮らせないから。」長い沈黙の後、孝明はそう言って立ち上がる。
 「どこへ行くの?」玄関へ向かう孝明に私は聞く。
 「車で寝る。一人で考えたいから。」と孝明は言った。孝明が玄関に鍵をかける音が私の心に響く。こんな時でも孝明は、戸締りをして私達の安全を気付かってくれる。そう思った時、私は声を上げて泣きじゃくっていた。
 
 







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