カッコウ ~改訂版

 上司に離婚の報告をした俺は、関東への異動願いを提出した。このまま同じ街に留まることは、あまりにも辛い。希望は受理されて、俺は4年振りに東京へ戻った。
 両親に離婚の報告をすると、
 「若過ぎたから心配だったのよ。二人も子供がいるのに。我慢できなかったの?」と母に責められた。離婚の本当の理由を俺は言わなかったから。でも、
 「心配かけてごめん。これからはちゃんとするから。」と言うと、母はそれ以上何も言わなかった。
 
 久しぶりの東京は、少しずつ俺を癒してくれた。学生時代の友達や同期入社の友達ともゆっくり会えた。新しい部署での仕事は覚えることもたくさんあり、忙しさが救ってくれる。
 毎日は当たり前に過ぎていく。朝起きて、仕事に行き、夜になれば眠る。心の傷も悲しみもそんな日々が、少しずつ麻痺させてくれる。忘れられるわけはないけれど。
 いつだって大翔と悠翔は、6才と3才のまま、俺の心の中にいたから。街を歩いていて、その年頃の男の子を見ると振り返ってしまう。どんな風に成長していくのか考えてしまう。ずっと側にいて見届けられなかった悲しみは消えない。
 本当にこれで良かったのだろうか。あの日から何度も繰り返す同じ思い。みどりを許して、同じ生活を続けることはできなかったのだろうか。でもどんなにみどりを愛していても、許すことはできなかった。
 愛しているからこそ許せない。大翔が俺の子供じゃないことを、みどりはずっと知っていたから。あの日、診察室でみどりの凍りついた顔を見てしまったから。
 大翔が小さい頃、みどりはいつも何かに怯えているように見えた。大きな秘密を抱えていたのだから。正面から俺と向き合えるはずがない。
 もし俺がみどりを許したなら、みどりは一生負い目を感じるだろう。今は俺に感謝をしても、いつか無理がくる。そんな関係は誰も幸せにしない。
 俺は自分の出した答えは最善だったと信じた。とりあえず目の前のことを頑張ろう。そのうち、少し前が見えてくる。徐々に遠くまで見えるようになるだろう。今は、そう考えるしかないから。
 
 






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