お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「さっきも思ったけれど、酒を飲んだな」

 思わぬ事実を指摘され、目を瞬かせる。嘘をつくわけにもいかず、白状した。

「少し」

「付き合いでも、無理して飲む必要はないんだ」

 相変わらず子どもに言い聞かせるような口調だ。上目遣いに彼を見て、ぎこちなく説明していく。

「無理したんじゃないんです……久しぶりでしたし、その……もしも私が少しでもアルコールを飲めたら、大知さんのお酒の相手ができるのにって」

 お姉ちゃんみたいに、とまでは口にしなかった。たしかにふたりが一緒に飲む姿に刺激を受けたのは事実だ。でも、それだけじゃない。

「……大知さんが家でお酒を飲まないのは、私が飲めないからで」

「違う」

 たどたどしくも言い終わらないうちに、大知さんはきっぱりと否定した。

「もともと、ひとりで飲むほど酒が欠かせないわけでも、酒でストレスを発散するタイプでもないんだ。それに酒を飲んだらあまり食べられなくなる。俺は、千紗のおいしい料理を楽しむ方がいい」

 大知さんの言い分に目を丸くしていたら、彼はやるせなさそうな顔になった。

「俺のために、無理させたんだな」

「だ、大知さんのせいじゃないです! 私が大知さんとお酒を一緒に楽しむのに憧れたんです」

 間髪を入れずに反論する。そう、大知さんのためは建前で、本当は自分の希望だったんだ。

「今度飲むときは、俺が付き合う。無理せず、一緒に飲もう」

「はい」

 うなずくと大知さんも笑ってくれた。目が合い、なにも言わなくてもお互いに求めるようにどちらからともなく唇を重ねる。

 今度はすぐに離れず、唇から伝わる温もりにホッとした。
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