お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
『 千紗、ごめんね。たくさんひどいことを言って』

 姉から電話したいと言われていて今日を指定していたのだが、その内容がまさかの謝罪で、私は目を見開いた。

 わけがわからずに混乱する私に、いつもの溌剌さは鳴りを潜め姉は神妙な声で続けていった。

『大知くんとのことで、千紗にずいぶんとひどいことを言ったから。私の代わり、とか千紗は裁判官の妻に向いているからとか』

 まさか姉がそこを〝ひどいこと〟だと思っているとは感じていなかった。私自身チクチク小さく刺さる棘はあったけれど、事実だと受け止めていたから。

『大知くんね、最初から千紗だけしか見ていないのよ。けれどお父さんが、私が彼氏と長続きしないのとか年齢的なのもあって、大知くんとお見合いさせたがったの』

 やはり父の目論見が絡んでいたらしい。それにしても姉をお見合い相手に推したのは、父から見ても大知さんとお似合いなのは姉だと感じていたからなのだろう。

『正直ね、プライドが傷ついちゃったの。昔からお父さんもお母さんも、千紗は大丈夫だっていって私のほうが信用ないし。大知くんも最初からああもはっきりと千紗を選んじゃってね。なにかが切れた気がした。悔しかった。千紗が羨ましかったのよ』

 姉の言葉に驚きが隠せない。私よりも姉は外見も能力も優れていて、自分に自信があってしっかりしていて……。

「で、でもお姉ちゃんは美人だし、頭も要領もよくて、同僚の人もお姉ちゃんを見て自慢の奥さまだって……」

 そこで私は口をつぐむ。姉が遊びに来たとき、大知さんの同僚の人が姉を彼の妻だと勘違いして絶賛していた。

 そのやりとりを偶然見てしまったことを気まずく話す。

『なに言っているの。自慢の奥さまだって褒められたのは私じゃなくて千紗のことよ』

「へ?」

 理解が追いつかず、私の頭上にはいくつものクエスチョンマークが飛んだ。あのとき私はそばにいなかったのに、なぜ?
< 122 / 128 >

この作品をシェア

pagetop