お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
【土曜日、よかったらふたりで行きませんか?】

 一瞬意味がわからずに混乱する。すぐに帰り際に声をかけられた講演会の件だと思い至ったけれど、それにしてもまぎらわしい言い方だ。

 仕事絡みとはいえ、異性とふたりででかけるのはどうなんだろう。

 結婚している立場、異性が苦手なことや自身の内向的な性格を考えると、選択肢は〝断る〟しかない。

 ただ、角が立たない言い回しがすぐに浮かばず、懸命に考える。

 すると新着メッセージが届いた。相手は川島先生だ。

【萩野先生もお誘いしてOKもらいましたから、終わった後三人でご飯でも行きましょう!】

 返事をする前に悩みは解決し、文面を見てホッとする。もしかすると、気をきかせてくれたのかな?

 お互いのためにも変な目で見られるような真似は避けた方がいい。いくら川島先生が独身とはいえ、どこで保護者や知り合いに会うかわからない。

 大知さんの関係者にだって……。

『代わりにしていたのかもしれません。口にしなくても無意識に元奥さんと彼女を比べちゃって、それを元奥さんも感じていたのかも』

 不意に川島先生の言葉がこのタイミングでよみがえる。大知さんも比べたり、もしもお姉ちゃんと結婚していたら、とか想像したりしてしまわないのかな?

 姉に久々に会えてうれしかった気持ちは本当だ。比べられるのも慣れている。

 それなのに、大知さんが絡むだけで私はどこまでも弱く不安になってしまう。こんなのは私らしくない。

 ぎゅっと自分を抱きしめ、バスルームへと急いだ。
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