私を、甘えさせてください
真実
「課長、来客だそうですよ」


ミーティング終わりで席に戻るところを、相澤さんに呼び止められた。


「え? 約束無いはずだけど、誰だろう」

「コンサルの方らしいですけど」

「採用の件かな・・ありがとう、ちょっと行ってきます」


そのまま階下の来客用スペースに向かう。

ノックをして中に入ると、背の高い男性が、立ったまま窓から外を眺めていた。


「お待たせして申し訳ありませんでした。初めまして、人事・・」

「永田 美月さん、ですよね?」


私が名乗る前に、名前を呼ばれて驚く。


「・・はい。あの、どこかでお目にかかりましたか?」

「ああ、失礼しました。事前に部下から、少しあなたのことを聞いていたもので」


名刺を差し出しながら、ニコリと微笑む。


「空川です。JHコンサルタントでシニアパートナーをしています」

「えっ」

「そういえば、ここに私の弟がいるようですが」


『実は・・俺の兄貴なんだ』

彼が言っていた、その人・・ということか。

多少のよそ行き感はあるものの、確かにこの声だ。


私に・・少し前にマンションでニアミスしたことに、気づいていないらしい。


「はい。本部長にはいつもお世話になっております」

「まぁ、弟のことはどうでもいい。それより、あなたは聞いていた通りの綺麗な方だ」

「は、はぁ・・」

「アハハハ。今後、ウチと外国籍採用関連でやり取りがあると聞いたもので、ご挨拶にと伺った次第です。どうぞよろしく」


握手すべく右手を差し出され、断る理由もなく、その手を軽く握り返した。


「ぜひ今度、食事でも。あなたを招待したい店があるんですよ・・。

失礼を承知で、あなたが未婚だということは把握済みです。もちろん、お誘いする以上は当然ですが、私も結婚していません。
近いうちに、必ず連絡します」

「あ、あの・・」


断る隙も与えず、部屋を出て行ってしまった。

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