くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
 扉が開かれると、礼拝堂の奥にある祭壇とその前に立つ麗しの魔王様、彼へと続くレッドカーペットが視界へ飛び込んできた。

 礼拝堂の左右に並ぶ長椅子に座る、列席者の多さに圧倒されたのはほんの少しの間だけ。
 すぐに理子の意識はレッドカーペットの先で待つ、愛しい魔王様へと向かう。
 壮麗なステンドグラスから降り注ぐ色鮮やかな光に包まれながら立つ、魔王シルヴァリスはお伽噺の王子様に見えた。

 纏う色彩を銀髪からグレーの髪へ、真紅の瞳は赤茶色の瞳へと僅かに変化させたシルヴァリスの視線は、真っ直ぐ理子を捕らえていた。

 ウェディングドレスに身を包んだ私は、早く彼のもとへ! と急く気持ちを抑えながら、小刻みに震える父親の腕に手のひらを乗せる。
 ガチガチに緊張して、動きが固くなった父親にエスコートされながら、ふかふかなレッドカーペットの上を歩く。
 厳かな礼拝堂と、列席者達の視線を集める状態に酔ってしまったようで、理子はふわふわした夢心地で歩いていく。
 お揃いの淡い黄色のドレスを着た、天使のように可愛らしい二人の金髪の少女が理子の後ろに続く。

 長いヴァージンロードの終点で、父親から離れた理子の手を取ったシルヴァリスは、普段の黒装束とは異なり輝く純白の軍服姿だった。
 セレモニー用の軍服というのも王子様みたいで、これがまた似合っているものだから、彼の隣に立つ理子の頬に熱が集中していく。

 魔王様の結婚式だからか、祭壇には神に仕える神父様では無く、神父の格好をしたアルマイヤ公爵がにこやかな笑みで立つ。

 逢えなかったのはたった二日ぶりなのに、熱がこもった視線を向けてくるシルヴァリスの妖艶な魅力に当てられてしまい、誓いの言葉に「はい」と答える声が若干震えてしまった。


「これで、この世界でもお前は俺のモノだ」

 少々長めな誓いのキスをしたシルヴァリスは、理子の唇から自らの唇を離した後に耳元へ唇を寄せ、流し込むように囁く。
 その声があまりにも蠱惑的で、情欲を含んでいたものだから、背筋がゾクリと震えてしまった。
 彼の腕が腰に回されていなかったら、膝から崩れ落ちていたと思う。

 式が終わり、シルヴァリスと腕を組んでバージンロードを歩く。

 新婦側親族席には、母親と頬を赤らめている姉、泣いている父親の姿。新郎側親族席にはキルビス、ベアトリクス、翔真の姿があった。

 礼拝堂を出ると、無数のシャボン玉と色とりどりの花びらが空から降ってきた。
 ごく自然な動きでシルヴァリスに抱き寄せられ、額と唇に軽く口付けが落ちる。
 くすぐったくて微笑めば、お姫様抱っこをされて周囲からは、キャーっと歓声とも悲鳴にも似た声が上がった。



 ***



 結婚式の後は、アルマイヤ公爵主催での披露宴、というのか結婚式の招待客との食事会が開かれる。

 公爵主催の食事会ということで==国首相はじめ、関わりのある経済界の重鎮や芸能関係者といった各界の著名人達が招かれていた。
 見た目は40代半ばにしか見えない、色素が薄い金髪青眼のハンサムなアルマイヤ公爵は、実は70代の年齢らしい。
 結婚式の招待客は少なからず魔国と関わりのある人達だと知った時は悲鳴を上げそうになった。
 見た目40代でもアルマイヤ公爵は魔法で老けさせているらしく、半分人の血を持つ公爵でこれなら、シルヴァリスとキルビスの実年齢は何歳なんだろうか。


「ご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます」

 次々に招待客からお祝いの挨拶をされて、愛想笑いを返す理子の表情筋はひきつっていく。

 招待客の肩書きと圧倒的なオーラに、理子だけでなく両親、特に父親は目を白黒させていた。
 姉の亜子は、公爵に似た親類の男性や見た目は極上の美男子なキルビスに瞳を輝かせて、意味ありげに微笑んだり胸を寄せたりとアピールしていたのは流石というか。
 お目当ての男性へお酌をしに行くのは、普段は鈍い母親もこの雰囲気では駄目だと気付いてくれたようで、席を立とうとする姉を父親と一緒に止めていた。
 姉が婚約者の彼氏と破談する日も近い、かもしれない。
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