くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
「隣人は今時イケメン風男子なのよね? いいじゃないの。目の保養が出来て」
「保養にならないよ! 疲れて帰ってきても、隣からの騒音で安らげないのよ? 夜中も朝も盛っていて、苛々して壁を殴りそうになったわ!」

 学生で仲良くしているのは別に生暖かい目で見送るだけだ。しかし、隣人の迷惑を考えない深夜でも関係無い、とばかりに盛っているのと、ベッドの軋み音と喘ぎ声は迷惑極まりない。
 
 一週間前の夜、部屋の外通路で鈴木君と彼女に会ってしまい、うっかり鈴木君に「今晩は」と愛想笑いで挨拶した彼女に睨まれたのも気分が悪い。
 お洒落で雰囲気イケメン男子とお化粧バッチリキラキラ女子の組み合わせでも、理子の帰宅時間に会わせてイチャイチャを開始するとか夜中でも声を抑えずに盛るとか、もう悪意を感じる。

「前もそんな事言っていたよね。前は女の子だっけ? もうその部屋から引っ越したら? 一時的にホテルかウィークリーマンションを借りるのもアリじゃない? それか管理会社に伝えたらどう?」
「ああ、それも考えたんだけどね。年度始めの忙しい時の引っ越しは面倒だし、ホテルに泊まる費用もないもの。管理会社へ連絡したけど、「分かりました」って口だけで、対応してくれのるかも分からない。連絡してから変化ないから」

 現在の仕事の状況と貯蓄を考えても、引っ越しの時間と費用の捻出は難しい。管理会社もこういうトラブルは面倒なのだろう。のらりくらりな返答で、頼れないと感じた。
 限界を感じたらビジネスホテルに数日泊まって避難するしかないかと、溜息を吐いた。

「じゃあボーナスまで我慢しなきゃね。それに無料でエロドラマを聴いていると思えば楽じゃないの」
「エロドラマは多少なりともロマンチックな前降りがあるでしょう? いきなり喘ぎ声とベッドの軋み音をロマンチックな展開へと脳内変換できないって」

 遠い目をする理子の視線を香織はさらりと笑ってかわし、形の良い薄い唇の端を器用に上げて、香織は自分のバックに手を入れて何かを取り出した。

「ではでは、そんな理子にこれをあげよう」
「何これ?」

 香織の手のひらに乗せられていたのは、五百円硬貨程の大きさの深紅の球体だった。
 居酒屋の薄暗い照明の光の下では赤黒く見えるが、よく見れば球の中に金色の模様が見える。

「何これ? すーぱーぼーる? 文鎮?」

 思ったままの言葉を口に出すと、香織は吹き出した。

「相変わらずアンタってズレてるねー。この前まー君と行った旅行でね、よく当たるっていう占い師に二人の今後を占ってもらったのよね。で、「二人の未来は明るい。もっと幸せになるように、これを持っていななさい」って追加料金払ったらくれたのだよ。何でも、異世界の魔女の力を込めたすばらしい幸運の御守りだって。理子も持っていたら彼氏が出来るとか、いい事あるかもよ? 実はねー、昨日、ついについに、まー君からプロポーズされちゃったの!」
「何それ? もの凄く怪しいじゃない」

 頬を赤らめている香織を見て、理子の愚痴を聞いてくれることよりも、彼氏からプロポーズをされたという報告が今回の目的だったと気が付いた。
 枯れた自分の悩みと頭の中がお花畑の香織。
 真逆の状況に、いくら友人といえども今ばかりは「リア充爆発しろ」と祈っても今は許されるだろう。

「今彼氏が出来たら身がもたない。面倒くさい。というか、異界の魔女って、胡散臭さ満載でしょ中二病臭いし。あっ、もしかして上手い事のせられて追加料金払って買ったけど怖くなったか、追加料金が惜しくなって私に買い取らせようとしているんじゃないの? そういえば化粧品買ったって言っていたし、愛しのまー君の誕生日がそろそろだったよね?」

 さっきのお返しとニヤリ笑ってやれば、香織は「バレたか」と、ペロリと舌を出した。
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