くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
 新幹線の改札口からすぐの柱に寄りかかり、理子は新幹線から降りてきた乗客達を眺めていた。
 目を凝らさなくとも、待ち人は目立つ外見のため近付いて来れば分かる。

(はぁ、相変わらずだなぁ)

 改札を抜ける人に埋もれる事は無く、やはり待ち人は目立っていて私は小さく息を吐いた。

「ヤッホー理子ちゃん久しぶり~」

 ブンブン手を大きく振り、小さめの赤いキャリーバックをガラガラ引きながらやって来たのは、明るい金髪を緩く巻いてバッチリ化粧をした、お嬢様系水色ワンピース姿の可愛らしい女性。

 彼女が纏う甘い香水の香りに、鼻がムズムズしてきた理子は息を止めてくしゃみを堪える。
 前に会った時は、髪を巻き上げたキツイ印象の「お仕事は夜の蝶ですか?」と尋ねたくなるようなギャルだったのに、付き合う相手によって人は変わるものだ。

「当日に連絡するのは止めてって毎回言っているでしょ」

 抱きついてくる女性の肩を押して、理子は彼女と距離を取る。
 混雑している改札前では恥ずかしいし、夏場に抱きつかれるのは暑いから止めて欲しい。

「亜子お姉ちゃん」

 キッと睨めば姉、亜子は「うふふっ」と声を出してニッコリ笑う。

「だってさー、急に理子ちゃんに会いたくなったんだも~ん」

 会いたくなった、ということと宿の確保は違う。理子は表情には出さずに心の中で舌打ちした。

「どうだか。どうせ彼氏にフラれたかお父さんと喧嘩して家出したんでしょ? 憂さ晴らしに買い物しに来た、ってところ?」
「おー! 大正解! さっすが理子ちゃん!」

 きゃっきゃっとはしゃぐ亜子をこの場に置いて帰りたくなった。

 亜子お姉ちゃんこと、山田亜子は理子の二歳上の血の繋がった実の姉だ。
 自分でも普通だと思う理子の容姿と比べ、大きなアーモンド型の瞳に小さな顔。全体的に小柄で可愛らしい姉と理子は、幼い頃から全く似てない姉妹だった。

 あまりに違いすぎて、友人からは血が繋がっていないのかと言われたくらいだ。
 高校時代に付き合った彼氏は、姉に会った翌日に「お姉さんが好きになった」と言われて振られたのは、嫌な思い出だった。

「じゃあ、さっそく買い物に行こうー!」

はしゃぐ亜子に半ば引き摺られるように、理子は姉のキャリーバックを入れるコインロッカーを探すのだった。


 流行の発信地と旅行雑誌に載っている場所へ亜子の荷物持ちとして共に周り、SNSへ投稿する姉の写真を撮っているとあっという間に日が暮れてしまった。
 夕飯は、馴染みの居酒屋じゃなく亜子が事前に調べて予約までしていたお洒落なダイニングバーへ向かった。
 家出してきた亜子は持ち合わせが少ないという理由から、飲食代を全て負担するのは結局は理子なのだ。
 亜子の家出の原因を作った父親に、後程迷惑料込みで請求しようと心に決めた。

「結婚したいくらい本気だったのにさぁ~。ちょっと他の男と遊びに言ったくらいで怒るとか信じられなくって」

 彼氏の愚痴を話す亜子の瞳には、うっすら涙の膜が張る。

 一般的には、自分の恋人が異性と遊びに行ったら怒るのではないかと、理子は話を聞きながら首を傾げる。
 恋愛感が少々おかしい姉と会話をしていると、理子が考える常識が正しいのか分からなくなるのだ。

「あのさぁ、亜子お姉ちゃん、今回は本命さん以外に何人いたの?」
「たか君以外は二人だよ? 今までに比べたら少ないでしょ? お父さんには「またかっ!」って殴られるし最悪! お母さんはバスツアーに行っていて庇ってもらえないし……私の味方は理子ちゃんしかいないのっ」

 本命以外に二人もいたのか。
 眩暈がしてきて、理子は片手で顔を覆う。

 毎度毎度、股掛けがバレて修羅場になっても学習しない亜子に、もう理子は「ふーん」としか返せなかった。

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