くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
 絞り出すように答えたテオドールを、シルヴァリスはフンッと鼻で嗤う。

「ただの、テオドールだと? 笑わせる。貴公は、今のアネイルの内情を知っているのか? 病にかかった余命少ない第一王子は王位継承者から外され、第三王子テオドール殿は行方不明。第四王子はまだ幼子だ。今では第二王子が時期国王とみなされている。この第二王子は、随分と野心家らしいな」

 苦虫を噛み潰した様なテオドールの表情から、アネイル王家には色々とどろどろした、お家事情があるらしい事が読み取れる。
 重い会話を交わしている魔王と王子に挟まれた形の理子は、居心地の悪さからシルヴァリスの胸元にしがみついていた。

「軍備を増強して、新たな兵器や魔道具の開発、禁術にも手を出しているようだ。そして、我が国に同盟を持ち掛けてくるとは、随分豪胆な考えだとは思わぬか?」
「なん、だと?」

 驚愕の表情を浮かべたテオドールは、自身を落ち着かせるためにギリッと下唇を噛んだ。

「暗黒時代後の条約で人族の国とは中立関係を貫く我が国へアネイル国王の名代として第二王女を送り、我か宰相あたりを引き込もうとしたのは浅はかな考えだと思うがな」
「妹は畏れ多くも、魔王陛下に魅了の術を使ったのですね。正に身の程知らず、愚か者の極みだ。妹は兄上の傀儡ですから、兄上の指示によるものでしょう。妹の力を利用し、兄上は父上すらも操っています。三年前、魅了の力に屈し無かった俺は邪魔者とみなされ消されかけた。だから……」

 だから、出奔した。
 異変に気付き、逃がしてくれたウォルトとエミリアがいなければ生き残れなかった。
 否、逃がしてもらったのではない、自分は戦わず逃げたのだ。

 自嘲の笑みを浮かべた、テオドールの青い瞳が暗く陰る。

 テオドールを護るように、ウォルトとエミリアが彼の左右へ来た。
 二人に構わず、シルヴァリスはさらに続ける。

「軍備の増強や人族同士の争いは魔族には関係は無い。だが、各国に散らばる暗黒時代の遺産を軍事に使おうとするのは、さすがに目に余る行動だ」
「それで……貴方は、俺に父と兄達を討てと?」

 暗い瞳のまま、テオドールは顔を上げた。
 暗黒時代の遺産を軍事に利用するなどと信じられない話だが、この地下ダンジョンで自分は証拠を目の当たりにしていた。
 各国でこの様な事を行っているのなら、国際問題に発展する。

「先日、第二王女を蔑ろにしたと、アネイル国王から抗議の書簡が届いた。あの不敬な王女を殺さなかった事に感謝せずに、謝罪どころか抗議をしてくるとは。クククッ、余程第二王子とやらは我に国を滅ぼされたいとみえる」

 クツクツ笑うシルヴァリスは魔王そのものの恐い笑みで、理子の背中は恐怖で寒気がした。
 もう下ろしてと、懇願を込めて見上げてみても、恐い魔王は素知らぬ顔でいる。
 こんなに深刻な話を、部外者の理子が聞いてもいいのだろうかと不安になる。

 とんでもない話に、テオドールは痛むこめかみを押さえた。
 魔王に喧嘩を売るような真似をするとは、如何に必要以上に自信家の兄とはいえ馬鹿か命知らずとしか思えない。
 それとも、魔王に対抗する手段でも見付けたのか。

「さて、テオドール王子。聡明な者ならば……国を、民を救うためにはどうするのが良いのかは理解出来るだろう?」

 問われて、テオドールは頷いた。
 否、魔王から発せられる圧力に頷かざるえなかった。

「貴公が王座を挑むならば、我は手は貸そう」

 一瞬で威圧感を消したシルヴァリスに、テオドールは大きく目を見開く。
 横に控えるウォルトとエミリアも驚きに体を揺らした。

「魔王陛下が、俺にお力添えを?」

 魔王は、魔族は人族の争いに関わらないという条約がある筈。
 自分が魔王から支援を受けたなら、他国が黙ってはいない。魔国、魔王と繋がりたい者達は多いのだから。

「我の寵姫を助けてもらった礼だ。返礼ならば、条約も関係有るまい」

 漸く、シルヴァリスは抱き抱えている理子の方へ視線を向ける。
 後ろで一纏めに括っていた理子の髪を解くと、シルヴァリスは手櫛でそっと鋤いた。


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