極上の愛に囚われて
『御曹司って小栗翔さんですよね。以前にビジネス雑誌に載っているのを拝見して、素敵な人だなぁって思ってたんですよ。そうですか、結婚なさったんですねぇ。残念です……』
『そう思っているお方が多いみたいですね』

 笑い声が渦を巻いているかの如く、耳に響いてくる。

 体中から血がなくなっていくような心地がして、膝がガクガク震えて壁に体を預けた。

『大丈夫ですか。すごく顔色が悪いですよ』

 誰かに声をかけられるけれど、返事もできないほどに思考が止まっていて、首を横に振ることしかできない。

 それからどうやって帰宅したのか。

 覚えているのは自宅のベッドにもぐってひたすら涙を流し続けたことだけ。

 どうして結婚していることを教えてくれなかったの。

 私は遊ばれているの? 

 それでも彼の表情や言葉が私に恋心をとどまらせる。

〝僕は沙雪のことを心から大切に思っている〟

 この言葉を信じたい。

 けれど、彼に奥さんがいるのは事実で、身分差よりも障壁が高い。

 だから、彼は私を抱いてくれないんだ……。キスも我慢できないほどに私を思ってくれていると思っていたのに。
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