死んだはずの遠藤くんが教室に居る話

「あの日、クーラーを入れて誰もいない家の中でソファに寝ころんでいたら、窓の外に綺麗な青空があって、吸い込まれるようにベランダへ出たらとても気持ちよかったんだ。これから本格的に夏が始まるんだなぁって思って、少しずつ消極的な自分を変えようと思った。嫌われているかもしれないけど、中学時代の自分とはお別れしよう強くなろう。って決意を決めたらなんだか変な自信が湧いてきて」

　ただのいたずらで
　遠藤くんは嫌われてはいなかった。

　その話の先は
　みんな嫌な予感でいっぱいだった。

「うちのマンション５階なんだけど、ベランダの手すりが平均台の幅くらいあって、お母さんがよく布団を干していて。なんだか急にそこの端から端まで歩けたら、僕の人生のこれからは絶対上手くいくような気がして……バカな僕はそこに立って歩こうと思って、２歩踏み出したぐらいで……落ちちゃった」

　衝撃の事実に頭が痛くなる。
　大岸くんはため息をしながら伝えると、お姉さんが悲鳴を上げて「バカか！！」って叫んでいた。遠藤くんは本当に申し訳なさそうに「ごめん」と謝った。

「変な薬を飲んだみたいに、いや、飲んだことないけど……妙にハイになったんだ。絶対できる。絶対それができたら全て上手くいくって……いかなかったけど」

「じゃ、本当に事故だったの？」
　遠藤くんのお母さんが大岸くんの説明に細い声を出すと、遠藤くんはうなずいた。

「警察が見つけた僕の携帯メモだけど、あれは日付を非表示にしていて中学校の時に書いたヤツなんだ。消そうと思ったけど、残しておいた方が強くなれるような気がして、自分との戦いって思って残していた。ごめんなさい、あれは昔のメモで遺言とかじゃないから」

　その言葉を大岸くんが伝えたら、力が抜けたようにお母さんは崩れたので、僕は慌てて遠藤くんの椅子を引っ張ってお母さんに座らせた。