策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「動物の命助けたい僕の考え方正しい。動物も意味ある行動する。仕方ないでしょ、考えても意味ない」

 卯波先生を失った絶望感からの、今の幸せだからか、死に対する恐怖に過敏になっている。

 卯波先生がいなくなったときの恐怖心が、未だにあるみたい。

「いつ別れが訪れるかわからないよ。生きてても別れは突然やってくる」

 戸和先生は幼いころにご両親が離婚された。悲しくつらかったでしょうに。
 
「雷、頭に当たったみたいだったよ、ショック、ショック、ショックありえないね」
 アハハハって笑っている。傷が癒えるまで相当苦しんだよね。

 戸和先生の屈託のない笑顔と自分の姿を重ねた。わかるよ、いつか笑える日がくるよね。
 
 入院患畜の世話や院内清掃や明日の準備を終わらせた。

「あああ、今日も一日無事に終わった、長く感じたなあ」

 ラゴムから一歩外に出たら、一日中感じていた左側にあった人の熱気がなくなって軽い。

「桃、ご飯食べて帰ろう」
 背後から、ギクッとするくらい聞き飽きた声がする。
 私の隣に、またさっきまでの熱気が頭のてっぺんから、ずっしりと感じられる。

「なに食べたい?」

 沈みかける夕日を浴びる戸和先生の顔が茜色に染まり、見上げるのが眩しくて目を細めた。

「僕、桃にとってきらきら眩しいね。ホットなナイスガイ」
 
「違います。夕焼けは、太陽が目線の高さにあるから案外眩しいんです」
 呆れて、力なく言葉を返した。

「そういうことにしておこう」
「それ以外のなにものでもないですよ」
「照れちゃって」
「どうして、私が戸和先生に照れなきゃいけないんですか!」
 煽られたか。
 声を上げてしまった。

「気持ちいい、桃いいね、怒った顔も可愛い。この街を案内して」
 左側の肘に軽く手を添えられて、颯爽と連れて行かれる。

「無理、ホント無理なの、呆れるほどの方向音痴だから」
「それなら二人で探検して、街を開拓しよう」
 
 夏のさわやかな風薫る夕方、仕事終わりにまで戸和先生といて、一体私はなにしているの。

「その手を離せ」

 背後からの声は聞き覚えのある、静かな迫力がある声。

 一言一句を切るように、ゆっくり言葉にするところも聞き覚えがある。

『その手を離せ』って、言い切る前に戸和先生の手を私の肘から離しているし。

「卯波先生! いつぶりだろう、嬉しい! とってもとっても逢いたかった」
 周りも見えずに、首に両手をからめて抱きついた。

 ん、がんじがらめみたいに身動きが取れなくて、暑っ苦しいんだけれど。
 なにこの感覚。
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