転生した人魚姫の奮闘とその結末
 気がつくと人魚姫だった。

(ウソでしょ?)

 昔、絵本で読んだ悲恋の主人公。
 よりによって、そんなキャラに私は転生したらしい。

 鏡を見ると、水色の腰までの髪がまっすく伸び、同じ色の大きな瞳は宝石のようにキラキラ。瞬きのたびにバサバサと音がしそうな長いまつげは、くっきりした二重の目をびっしり囲っている。そして、愛くるしい顔立ちは十人が十人とも見惚れるほどだった。
 
(わぉ、なんて美少女!)

 自分で自分にうっとりしてしまう。

 転生した認識があるってことは、前世を覚えているかというとまったくで、本が好きな女の子だったということしか覚えていない。
 でも、人魚姫のストーリーはバッチリだ。
 読んだ当初、ツッコミまくっていた覚えがある。
 もっとガンガン王子様にアタックすればいいのにって。
 この容姿なら可能じゃない?

 オーケーオーケー。
 私は物語の人魚姫の二の舞になんかならない。
 まずは王子様に会わなければいいんじゃない?
 これで完璧。
 王子様に恋して泣くこともないし、海の泡になることもない。
 快適な海の中で面白おかしく過ごせるってものよ。


 わざわざ海上に出なくても、王宮生活は快適だった。
 珊瑚やパールに彩られた宮殿は豪華で、なにもしなくても美味しい食事が出てくるし、鯛や平目が舞い踊り……って、それは違う話か。
 でも、実際、お魚や人魚以外にもカニ、サメ、イルカなど友達はいっぱいいたから退屈しなかった。
 特に、カメのオーフェンとは気が合って、いつもおしゃべりしていた。

「たまには地上を見るのも面白いよ。こことは違った景色が見られる。一度、夕陽の沈む海をサーナに見せたいなぁ。それは美しいんだ」
「絶対イヤ! オーフェンは私を不幸にしたいの?」
「そんなわけないだろ。俺はいつだってサーナの幸せを祈っているよ」

 そんなことを言われて、カメに対して、ドキリとしてしまう。
 オーフェンはカメのくせにときどき男前なセリフを言うのよね。


 こんなふうに私は頑なに海上に出ないようにしてきた。なのに、ある日、お姉様たちとの追いかけっこに夢中になって、うっかり海上に出てしまった。
 運悪く、そこには大きな船。
 よりによって、その甲板に、王子様がいた。

 風になびいて煌めく金髪、光に反射してキラリと輝く海の色の瞳、微笑みを浮かべた口もと。デッキの手すりに腕を乗せて、遠くを眺めている横顔は見たことがないくらい整っている。

(ズッキュ〜ン!)

 心臓が撃ち抜かれた音がする。
 好みど真ん中の美形男子。
 これはヤバいわ。
 まんまと私は恋に落ちた。
 やっぱりストーリーからは離れられないのかしら……。

< 1 / 8 >

この作品をシェア

pagetop