仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
 

 怖いもの知らずで不愛想なため、名前に似つかわしく『鬼先生』と揶揄されることもあるが、鋭い眼光は大人の色気が漂っていて、鼻梁も高く、イケメンドクターと患者からの人気も高い。大知目当てで外来を訪れる患者も少なくない。

 そして現在、患者の術式を決めるための大事なカンファレンスが行われているのだが、大知は決まりかけていたことをさっきの言葉で覆そうとしていた。

「それはどういう意味かな。岩鬼先生」

 今回の進行役である脳外科の副部長の佐藤が、顔をぴくぴくと引きつらせながら、一番うしろの席に座る大知に問う。足と腕を組み、顔は仏頂面。その態度はひどく横柄で、佐藤が不機嫌になるのも無理はない。

「患者は七十九歳の高齢女性、糖尿病の既往あり。十ミリ程度のいびつな未破裂脳動脈瘤があり、ここにセカンドオピニオンを求めて来られたとのことですが、私も紹介先と同様、オペをするにはリスクが大きすぎると感じています。脳血管内治療がベストかと」

 淡々とした物言いに、周りから「相変わらずね、鬼先生」「副部長相手によくやるよ」といった声が飛び交う。


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