仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
第四章 近づく不穏な影


 昨夜から何件も入っていた着信にうんざりしながらも、大知は車のブルートゥースにつなぎかけ直した。
 
 拓郎から電話が入るなんてめずらしい。いったい何事だろう。そう思いながら出るのを待つが、何コールしても出る気配がない。

(まだ寝てるのか? まぁ、またかけ直してくるか)

 特に気にせず電話を切ると、朝日が昇る街中を颯爽と走った。
 
 この日は予想通り外来も忙しく、急患も続き、クリスマスと正月がいっぺんに来たような日だった。

 夕方、運ばれてきた患者が緊急オペになり、今日の帰宅は難しいと思われた。しかも明日は当直ということもあり、二日も家を空けることになりそう。心は通じ合ったものの、はやり時間を作るのは難しい。

 杏に今日は帰れそうにないと電話すると、「わかりました。ちゃんとごはん食べてくださいね」と、返ってきて、その優しい声音に癒された。




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