仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない

 
 レセプトは事務員だけではなく、医師たちのチェックも必要。つまりまた膨大な量の事務仕事がやってくるというわけだ。

「げげ、救外から電話だ」

 そこに、黒瀬の携帯が鳴った。

「すみません、呼び出しみたいなので、岩鬼先生、閑ちゃんに聞いてもらってもいいっすか?」
「あぁわかった」
「まじすんません!」

 顔の前で手を挙げ詫びるポーズをとると、救外へと下りて行く。仕方なく大知は閑に電話をかけた。だが出ない。

 閑のことだ、きっと根詰めて飲まず食わずで仕事をしてるのだろう。前にも確かそんなことがあった。無理しすぎて点滴を打ったこともある。

 人のことは言えないが、ちゃんと食わないと、まともに思考が働かない。

 脳外の医局は脳外科病棟のすぐ下の階にある。大知は看護師に「ちょっと待っててほしい」と断りを入れると、軽快な足取りで医局へと向かった。


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