国際弁護士はママとベビーに最愛を誓う~婚姻解消するはずが、旦那様の独占欲で囲われました~
「今夜? どうかしら。暇だったかな」
「フレンチ好き?」
「うーん、好きといえば、好き……かな」

断る雰囲気を醸し出そうとするのに、断りきることはできない。それを見抜かれているのだろうか、あちらは私が断らない前提で話を進めてくる。

そこでまた彼の電話が鳴った。これ以上私と話している時間はないらしく、彼はスマホとともにジャケットの裏から名刺入れを取り出すと、私に一枚手渡す。

「じゃあ連絡して。今夜十九時」

電話に出ながら背を向ける彼に、私は「行けたらね」と念を押した。
ニューヨークとは逆だ。私は手渡された名刺を眺める。シンプルな黒文字と、重みのあるマイジェンR&Dのロゴ。会社の代表電話番号、個人の携帯番号、メールアドレスが記載されている。
私からもこれをもらったのに、彼は電話をかけなかった。
私だってかけなくていい。こちらだけ追いかけるのは悔しい。

しかし、一年越しに再会した彼はあのときと変わらず、いやそれ以上に、仕事モードだった姿は見惚れるほど格好よかった。
あの人と、今夜食事に。また夢の続きが始まったように思えたが、同じく一度切り捨てられた事実も再熱して許せなくなる。

でも私は、彼のようにこれを破り捨てることはできなかったのだ。
約束の十九時。私はここへ電話をかけ、そして一夜を共にした。



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