暗い暗い海の底

「君は、少し座って休んでいたらどうだ？」

「ありがとうございます。ですが、知らない人が多いので、あなたの側にいます」
　と言えば「そうか」と言って彼は口元を緩める。


　そんなとき「おいっ」とか「きゃー」とか。複数の声があがった。

　驚いてその声の方に視線を向ければ、人が集まっている。さらに人の集まっている先の川の中では水飛沫が起こっている。

　あの場所は穏やかなこの川でも少し深くなっている場所。急に足元を奪われてしまうような感覚に捉われ、あのような騒乱状態になってしまうのだ。水飛沫をあげている人物が誰かはわからないけれど、まして子供だった場合は最悪の事態まで想定してしまう。だけど、その最悪の事態を想定して、少し離れた場所に浮輪が用意されている。私はそれを抱えて川の方へと走り出した。