Dear my girl

24.


 終わった……と思いながらも、一孝はいよいよ核心に触れる覚悟をした。

「興信所は住所だけでなく、谷口の状況まで調べてきた。親父はそれを俺に見せて、谷口が好きならちゃんとしろとぶん殴った」

「じ、状況って……」

「……お前、どう嫌な目に合ったのか、相手の特徴とか、ちゃんと全部警察に報告しただろ。犯人は常習犯で、でも他の被害者は怖がって口を閉ざしていたって。それを知って、もうこれ以上被害が出ないように、耳も聞こえない状態で、筆談で説明したんだってな」

 聞いていたくないのか、沙也子が徐々にうつむいていく。栗色の髪が顔にかかり、彼女の表情は見えなかった。
 それでも一孝は、とにかく口を動かし続けた。

「谷口の証言のおかげで犯人は捕まったと書いてあった。……おばさんのことも、そのことも、俺が知ったのは1年も経ってからだった」

 沙也子はずっと沈黙している。


 まるで死刑宣告を待つ気分だった。


 どれくらいそうしていたか、沙也子は自分の手元を見つめたまま、呟いた。

「その、興信所が調べたってやつ……、全部読んだの?」

 
 犯人に道を訊かれた沙也子は、越してきたばかりだから分からないと答えた。
 さらに相手は優しげに話しかけてきたが、彼女は警戒して逃げようとした。
 そんな沙也子を無理やり人気のない場所へ連れて行き、身体中をまさぐった。

 沙也子の悲鳴を聞きつけて通行人が来てくれるまで、どれほどの恐怖だっただろう。

 ――そして助かった思ったら、母親が交通事故にあっていた。


「知りたかったから。谷口が何をされたのか……どんな辛い思いをしたのか……。俺は、ガキみたいに拗ねてた自分を死ぬほど許せねえと思ったし、その変態野郎もぶち殺してやりたかった」

「……それで?」

「好きだから、守りたいと思った。何度か……こっそり谷口を見に行ったこともある」

「ええっ!」

 沙也子がますますドン引くのも無理はなかった。

 何度か……と言ったが、わりと月1のレベルで、週末に沙也子の姿をそっと見に行っていた。

 祖母と暮らしている公団の周りをうろつき、彼女が祖母とともに買い物に出るのを何度か見かけた。


 先ほどの盗撮野郎を思い出す。
 まったく人のことは言えず、これではどちらがストーカーか分かったものではない。


 沙也子は、ものすごく戸惑った顔をしていた。

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