Dear my girl

12.


 文化祭当日は、見事な快晴で、季節外れの暑さとなった。

 校門はバルーンのアーチで彩られ、屋上からは各クラスの出し物の内容がカラフルな垂れ幕で下げられている。沙也子はさっそくスマホで写真におさめた。

 門をくぐると、すでに屋台組は設置にいそしんでおり、まさしくお祭騒ぎの雰囲気だった。
 
 少しずつ準備が進められていた校内は、さらに華やかで賑やか。クラスごとに柱や壁が装飾され、カラーフィルムを貼られた窓などは、光が差し込むとまるでステンドグラスのようだ。晴れてよかったと嬉しくなる。

 担任の声掛けで、始まる前にクラス全員で写真を撮ることになった。みんなが準備の手を止め、一ケ所に集まる。
 担任の松永は「もう1枚!」を繰り返し、何度かシャッターを切った。

 松永のOKが出て、またそれぞれ準備を進める。クラスのテンションが徐々に高まっていく中、沙也子はチャイナ服を見事に着こなした律に声をかけた。

「ね、わたしたちも、写真撮ろうよ」

「うん。撮ろう撮ろう」

 律は長い黒髪をお団子にまとめていて、まさに可憐でキュートなチャイニーズガール。自撮りモードにして沙也子が精いっぱい手を伸ばしていると、クラスメートの吉田が爽やかに微笑みながら手を差し出してきた。

「俺、撮ってやろっか」

「ほんと? じゃあ、お願いしようかな」

 吉田は沙也子のスマホをかまえ、「うーん、なんか逆光かな。ちょっと自分ので試していい?」と自らのスマホでまず撮った。
 魂胆がもろ透け透けに透けて見えたが、沙也子は突っ込まないでおいた。先日助けてくれた恩がある。律もとくに何も言わなかった。

「ほい。どうかな、ちょっと見てみて」

 吉田からスマホを返してもらい、撮ってもらった画像を確認する。黒いクラスTシャツを着る沙也子は、律の隣に立つとさながら黒子のようだが、ふたりともいい笑顔だった。とてもよく撮れていて、律も嬉しそうだ。

「ありがと」

 律に笑顔を向けられ、吉田は真っ赤になっていた。ここまで分かりやすいと微笑ましい。
 ちなみに、頼まれたとおり吉田の好きな人は律だと一孝に伝えたところ、「分かってる」と返された。沙也子の方はわけが分からなかった。


 画像を律に送っていると、文化祭開催の校内放送が響き渡った。いよいよ来校者が入ってくる。

 文化祭実行委員の掛け声で気合を入れ、それぞれ持ち場についた。

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