憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
服従
 実家から戻ってきてからというもの、毎日気が重たかった。愛する人の裏切りを知ったまま、平静を装って生活できるメンタルなんて、私は持ち合わせてなく――。

「美羽、やっぱり無理してるんじゃないのか? 顔色が悪い」

「そんなことない。悪阻も最初の頃に比べたらマシになったし、こうして一緒にご飯も食べられるようになったんだから……」

(私をここからなんとか追い出して、貴方は浮気相手とイチャイチャする気なんでしょうね)

「確かにこうして顔を付き合わせて、美羽とご飯を食ったのなんて、めちゃくちゃ久しぶりだよな」

「そうだね……」

「美羽が元気ということは、おなかの中にいるコも元気だって証拠になるのか。やっぱり嬉しいな」

 私の目に映る良平さんは、付き合ってる頃の彼と変わりなくて、泣きたくなるくらいに優しさも変わりなかった。

「朝飯美味かった、ご馳走様」

「そう、よかった。これ、お昼のお弁当」

 食卓テーブルの隅に予め用意していたそれを手にしたら、良平さんの表情が途端に曇る。

「悪い。今日は仲間内で蕎麦屋に行く約束してるんだ。明日また頼む」

「わかった。じゃあこれは私のお昼にするね」

 手にしたお弁当を元に戻すと、良平さんは、椅子から腰をあげた。

「あのさ美羽」

「なに?」

 良平さんをちゃんと見て返事をしたというのに、なぜか顔を背けられた。妙な行動に眉を顰めると、目の前で肩を竦められる。

「具合が悪くなったら、すぐ横になれよ。心配すぎて、またたくさんラインを送るかもだけど」

 リビングを出て玄関で靴を履き、振り返った良平さんが私の頭を何度も撫でた。私から注がれる視線にスルーしたことを、まるでフォローするかのように。

「私の体を心配してるから、しつこくラインを送ってたの?」

「当たり前だろ。もう美羽ひとりの体じゃないんだしさ」

 言いながら良平さんの顔が、音もなく近づいてきた。キスされることがわかって反射的に俯くと、額に唇が押しつけられる。

(付き合ってるときですら、こういうことをしない人だったのに、今さらなんなの!?)

「美羽のそういうところ、ホントにかわいいよな」

「?」

 頭を撫でていた手が頬をゆっくりと撫でてから、耳朶に触れた。

「痛っ!」

「悪い。触り心地がよくて、つい力が入りすぎた」

 良平さんが爪を立てて耳朶を押し潰した痛みに、思わず声をあげてしまった。ピアスをしてなくてよかったと思う。

「美羽の耳たぶ、そんなに柔らかいものだったっけ。思わず捻り潰すところだった」

「なんか良平さんらしくないね。仕事が忙しすぎて、ストレスが溜まってるのかもしれないよ」

 私のほうがストレス溜まってるなんて、絶対に言えない――。

「……生でヤってないのに、なんで妊娠したんだろうな」

「えっ?」

「美羽が職場にいてくれたときは、どんなに忙しくても頑張れたのに」

(ちょっと待って。この人、なにを言ってるの? 私からどんな言葉を求めているんだろ……)
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