憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
修羅
 美羽姉は2日ほどで退院した。当然そのまま実家に戻り、静養するとラインで連絡がきた。

 そのタイミングに合わせて顔を出したかったのに、ターゲットをマークする仕事が突如入り、彼女に逢うことができたのは、それから10日後になってしまった。

 病院で一切泣かなかったことを含めて、メンタルも最悪なのを知ってるゆえに、体調について訊ねても、美羽姉のことだから俺の前だと大丈夫だと強がることが想像ついた。

 だから美穂おばさんにコッソリ連絡を入れて、美羽姉の様子を訊ねてみたんだ。

『病院から帰って来たときは、気丈に振る舞っていたの。だけどね、良平さんから美羽の荷物と一緒に離婚届が送られてきたときは、そりゃあもう落ち込んでしまって。役所に届を出してからは、ご飯も喉を通らなくなっているし、ずっと部屋に引きこもったままでいるわ』

 傷ついた体を抱えた状態で、好きな相手に離婚すると言われた衝撃も相当なものなのに、離婚届を自分で出すことなく美羽姉に出させる時点で、ザックリと深い傷を作りやがった――。

 最後の最後まで徹底して相手を傷つける旦那さんに嫌悪感を覚えたが、今はそれどころじゃない。

「おばさん、今夜お邪魔します。美羽姉にカツを入れてやりますよ!」

 元気に言い放ってからスマホをタップし通話を終えて、その場から踵を返した。俺が向かった先は、美羽姉が大好きなケーキ屋。子どものころ、美穂おばさんにあずかってもらっているときに、たまにだったけど三時のおやつとして、その店のケーキを買いに出かけたんだ。

 美羽姉に手を繋いでもらったことなど、懐かしい記憶を思い出しながら、ケーキ屋の扉を開ける。スポンジの焼ける香ばしい匂いにつられるように入店し、ショーウィンドウに並ぶたくさんのケーキを眺めた。

 昔とあまり変わらないラインナップに安堵しつつ、目的のケーキを包んでもらう。

(これでよし! こんなちっぽけなことしかできないけど、喜んでもらえるといいな)

 好きなものを見てほほ笑む美羽姉の顔が、どうしても見たかった。
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