春色の恋−カナコ−[完]

「カナコちゃん」

まぶしそうな眼をして私を見る河合さんに、自分から近づくとそっと伸びて来た手で頬をなでられた。

「よく似合っているよ」

「あ、ありがとうございます」

すごく優しい声でそう言われ、恥ずかしくてうつむいてしまう。

私の後から入ってきたお母さんに、河合さんが挨拶をするためにすっと頭を下げる。

赤くなった顔を両手で仰ぎながら窓際を見ると、落ち着かないお父さんが新聞を持って固まっていて。

読んでいる…にしては動かないところを見ると、頭に入っていないんだろうなぁ。

「お父さん？」

「ん、ああ、カナコ。よく似合うじゃないか」

着物姿の私を見て、手にしていた新聞を畳んだお父さん。

お母さんと河合さんが話をしているのを見て、少しだけため息をついた。

「え、どうしたの？」

なんだかさみしそうに二人を見ているお父さん。

私の胸もなんだかきゅんと締め付けられるようになってしまう。

「カナコももうすぐお嫁に行くんだなぁ」

「お父さん…」

控室でどうやらお父さんと河合さんはしばらく二人きりだったようで。

どんな話をしていたのか分からないけど、河合さんのことを気に入っているらしいお父さんのことだから、悪い話はしていないはず。