ショートケーキと羊羹の空想論
 黒髪おさげの眼鏡女子、教室では隅っこ族の、陰キャ丸出しの私とわざわざ話そうとする男子は、真柴くん以外にはいないと思う。

 なので家を出る時間が重なると、自然と一緒に登校する流れになる。

 なんとなく隣りが見れなくて目線を下げると、ふぁ、とまたあくびがもれた。

「あん子先輩、眠そうですね」

「……まぁ、ちょっと」

「もしかして昨日、遅くまで起きて小説書いてたんですか?」

「っへ」

「ほら、この間言ってた……猫が変身する話」

 勘が良すぎるよ、この子、と思って見ていたら。既に真柴くんとはその話のやり取りを済ませていたのだ。

「書けたら読ませてくださいね」

 真柴くんのふわりとした笑みが眩しくて、目がチカチカする。

「ん、わかった」

 三次元の異性に慣れていなくて、私はまた目をそらした。

 そういえば真柴くんとは、そんな約束をしたんだっけ。

 私が書く物語の読者になってくれると彼は言ったのだ。真柴くん曰く、私が素敵だと思うことを判定してくれるらしい。

 同じ価値観だといいな、とつい思ってしまう。私の考えが彼にも許容されれば、世間一般でも通用するかもしれないから。
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