君の香りに囚われて
はじまり


 大学2年生の咲園苺花(サキソノ マイカ)はストーカーに遭いやすいとことに悩んでいた。

小さい頃からどうも不審者に狙われやすかった。

公園や下校途中で苺花だけやたらと男の人に話しかけられたり、ひどい時は後をついて来られたり、、、。


けれど、それがより一層ハッキリと感じられるようになったのは高校生になってからだった。


自分にはそのつもりがなく何気なく接していた相手にいつの間にか執着心を抱かれてしまうことに気がついたからだった。


最初は小さな違和感だった。


通学の電車が一緒の男子高校生。

その男の子の落とし物を拾ってあげてから挨拶を交わすようになった。

苺花より背が高くてメガネをかけている真面目そうな男の子。
二駅先の進学校の制服を着ていた。


駅でたまに会う程度だったのに。
その内なんだか通学路途中でも見かける様になっていた。


「あれ?まただ。なんで?」

ただの偶然だと思おうとしていたのだけど、それが連日重なるようになり、やっぱり不自然だと思い至る。


その男の子が自分を見る目つきが段々と気になるように、、、。

ただ見ているという感じではなく。

意志のある、まとわりつくようなその目つき。


他の人にも通学中待ち伏せされたり、付きまとわれたり。

それもみんななんとなく見かけてその存在に気がつくようになると頻繁に目につくようになるのだ。

そして、あの眼鏡の男の子と同じような目つきになる。

瞳の奥の炎。

仄暗い。


みんな同じような色をしている。


だから男の人、なんとなく苦手。


いつも誰とも目を合わせないように伏し目がちに過ごしていた。



 苺花は、色が白くて子犬のような大きな茶色の瞳を持っていた。

鼻も口も小さな作りをしていて、まあるいほっぺの童顔。

身長は平均よりも低めで一見して地味。


だけど、何となく目を惹かれる、大人しそうで守ってあげたくなるような庇護欲を掻き立てられる。

そんな雰囲気を持っていた。

老若男女問わず皆可愛いと言ってくれていたのだが、ストーカー行為が度重なり可愛いと思われること自体が怖くなっていた。


色素が薄く少し癖のある長い髪も、目立つが怖くなり肩くらいのボブにしてしまった。


それがまた幼さを助長させてもいた。


中学も高校の制服もみんなみたいにおしゃれに着崩したりしなかった。

スカート丈も標準のまま。

靴下もローファーも校則の通り。

極力目立たないように気をつけて生活していた。

なのになのに、なんでなのだろう。


男の人に関わり合いたくない。


あの仄暗く熱を含んだような視線がチリチリと体中を這うようで思い出すとゾッとしてしまう。



 ストーカー行為に遭うたびに幼なじみで親友の京谷詩(キョウタニ ウタ)に助けられていた。

詩の登場でストーカーが蹴散らされる。

ボディーガードのような。

苺花にとっては幼い頃から頼れる存在だった。


だからそのメガネの男子高校生も、詩を警戒してなのか段々と側に近寄らなくなっていつの間にか姿を見かけることがなくなったのだ。


ホッとした。

詩に感謝していた。


「詩みたいな大人で落ち着いた彼氏が欲しいよ。」

そう嘆き半べそをかくたびに

「そうだね。

彼氏でもいたら付きまとわれたりすることなくなるかもね。」

とヨシヨシと頭を撫でられて同情されていた。


幼なじみの詩は
背がすらりと高くて細身。

その身体の上に小さな顔がちょこんとのっている感じ。

鼻筋が通っていて少しつり目。

大きくてとても目力がある。

顔の均整が整っていてとても美人だった。

この美しい目で睨まれると相手はその迫力で逃げ出してしまう。

静かだけど本当に効力のある威嚇。
しなやかで猫のようなイメージ。


詩が猫で私は犬か。

詩の方が美人で私よりも全然目立つんだけどな。

クールビューティで、他の人を寄せ付けない雰囲気を持っている。

詩も苺花以外の人とは当たり障りなく付き合って生活していた。

美人っていうのは時に、逆の効力を発揮させてしまうものなのか。

美しすぎて安易には近づけない。

苺花といる時以外は美しい顔があまり動かないというか。

無表情のような印象を受ける。

冷たそうな感じというか。

勿体ない。
って常々思っていたんだ。


 その詩が最近花が綻ぶような美しい笑顔を見せるようになっていた。

光り輝いていて眩しさすら感じる!!

眩しくて目が潰れてしまいそう。


いつもこんな笑顔だったら沢山の人に囲まれているんじゃないかしら。

苺花はその笑顔をうっとりと眺める。



 苺花と詩が通う学校は女子校で中学から大学までのエスカレーター式。

駅から徒歩で10分ほど。

校門には警備員さんが常駐していてセキュリティも心配ない。

特に受験勉強を頑張らなくてもそのまま進学出来るので、広くて芝生の美しいキャンパスで2人ともわりと呑気な学生生活を送っていた。



 そんな中、大学に入ってからは駅前の大きなビルの中の韓国料理店で詩がアルバイトをし始めたのだ。


韓国料理店は高級店と位置付けられるようで、会員または会員の紹介でないと入店出来ない。

連日ほとんど予約客でいっぱいになる。


そんな人気店だった。


ビルの地下駐車場に車で入ると専用エレベーターに乗ってそのままVIPルームフロアに上がれるので、芸能関係者や政治家も頻繁に利用してるらしい。


詩からこっそり聞いた話だけど。


詩は意外に芸能関係にとても詳しい。

テレビやネット上のゴシップにちょっと敏感なタイプで世間で噂になることはなんでもよく知っていた。

苺花はあまり興味がなかったから、詩から教えてもらう話はいつも初めて聞くものばかりだった。


ただ話を聞いて

「へー!」とか

「そうなんだ!」とか

そんな返事ばかりしていた。



詩がアルバイトを始めてから何度も

「苺花も一緒にアルバイトしようよ!」

と誘われていた。


今までのストーカー行為で苺花は新しいことに挑戦するのにかなり臆病になっていた。

新しい環境も怖い。

男の人に関わるのも怖い。


何度か詩に誘われる度に小さい子供が首を横にブンブン振るように嫌々をして断っていた。

小さい頃から色々なことに対してよく考えて行動する性格で、控えめ。
臆病。

自分のことより相手のことを優先して考えて生活してきたので、
こんな風に自分の感情を素直に表現できるのは、詩の前だけだった。

そんな様子をお姉さんのような表情を浮かべて詩が見守っている。


「でもね、苺花。

そろそろ違う環境にも慣れないといけないの分かってるよね?」


綺麗な指先。

薄いピンクのマニキュアが塗られている指先を眺めていたら、その指がビシッと自分に突き立てられた。

苺花は眉毛をさげて叱られた子犬ようにため息をつきながら

「わかってる、、、。」

とうなだれて返事をした。



 大学を卒業するまであと2年。

ずっと女子校で守られて安心して生きてきた。

ここからポンといきなり投げ出されたら自分は一体どうすればいいのか、、、。

考えるとすごく怖い。

足元が全部崩れちゃいそうで。


だからあまり考えずに日々を過ごしてきたけれど。

そうも言っていられないことも確かだった。


詩はもうすでにその次のステップに上がる準備に取り掛かっているのだ。


「それにね。

苺花に会って欲しい人がいるんだよ。」

詩の小さい顔に赤みが差している。

つやつやのほっぺ。

キラキラの瞳。



ああ、これ見たことある。

他の同級生もそうだった。


恋をしている時の女の子の顔だ。


これはその人に会うまで詩のお願いは続きそうだな。

付き合いの長い苺花は詩の性格をよくわかっている。

苺花がうんと言うまで諦めずにこれからも誘ってくることだろう。   



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