神様、この恋をよろしくお願いします。
「悠っ、おかえり!」

ひょこっと手を振りながら現れた、あたしたちのこの微妙な空気もお構いなしに入り込んでくる。


「真菜」


今はすっごく会いたくなかったな。

「急にヒマになったの、ご飯行かない?」

「は、彼氏は?」

「別れた!てゆーか子供いることバレて振られた!ひどくない?信じられないよねっ」

明るい声に、あっけらかんとした表情。

ひどいのはどっち…
どうしてそんなに笑っていられるの?

信じられないよ。

あたしは今、笑えてない。

「だから、行こ♡なんでも奢ってあげる♡」

「いいけど」

「やった、じゃあ決まりね!」

真菜さんが悠の腕を掴んだ。

だから咄嗟に反対側の腕を引っ張っちゃった。

「行かないで」

瞳が熱くなった。

溢れそうになる何かをグッとこらえて悠の青い瞳を見た。

「…は?」

「行かないほしい…っ」

ぎゅっと力が入る、だから悠は痛そうに顔を歪めていた。

「あ、じゃあこなっちゃんも行く?いいよ私はっ」

「行きませんっ!!」

声が大きくなっちゃった、その瞬間真菜さんの表情が変わった。

「あっそ、じゃあいいわ。悠は?どうすんの?」

会った時からにこにこしていた真菜の表情が急にスンッと何もなくなったかのように無になった。

心臓がドキドキ言ってる…

どうしよう、怒られる…!?

掴んだ手まで震えてきちゃった。

「行く」

「よね♡じゃあ早く行こっ」

グッと力強く引っ張られたから、震えたあたしの手からスルリと悠の腕は抜けていった。

「悠っ」

もう一度腕を掴みたかったけど、掴めなかった。

「待って!悠やめなよ、だってまたっ」

同じことを繰り返すんでしょ?

振り回されてばっかりじゃん!

その度、悠は悲しい思いしてるんじゃないの…っ

「帰れよ」

冷たい瞳、あたしを睨みつけてる。

「お前には関係ねぇーよ!」

そんな瞳、してたんだ。

体が固まって動けない。

何も言えない。

真菜さんがスルッと悠の腕に手を通した。

腕を組んで、にこにこ笑ってた。

「今日行きたいとこあるの!こないだ教えてもらった超キレイな夜景の近くのお店なんだけど♡」

「ふーん、どこでもいいけど」

悠が行っちゃう。

止められなかった。

もうあたしのところへは来てくれないのかもしれない。 


“…女ってなんでそーゆうの好きなの?全然わかんねぇけど”

“相沢くんは思わないの?”

“大嫌いだな”


嫌いって何が?

何が嫌いって言いたかったの?


我慢していた涙が溢れてくる。

ポロポロと拭う気にもなれなくて。

あたしにできることって何なの?

あたしには何もできない。
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