【奏】きみにとどけ
―――なのに…


気づいたら、野々瀬には男が出来てた。




それを知ったのは

2人が別れてから……。





3年になってからだか


2年の終わりからだか


とにかく野々瀬には彼氏が出来て


修学旅行の後に別れた。




理由はよくわかんねぇし


知ってる奴もあんまいねぇみたいだった。





その噂を聞いた時も、俺は


あぁこの手の噂って広まるの早いよな


まぁ俺には関係ねぇや



その程度のレベル。





修学旅行が終わってから

――数日後。






何を忘れたのか忘れたけど


兎に角、忘れ物をした俺は


オレンジに染まる夕日をの中


教室に戻った瞬間。




開け放たれたドアを……



一歩、踏み出せなくなった。




『ウッ…ヒック…グス』



堪えようとして

堪えきれず

漏れた声を必死で抑える声。




固まったみたいに動けなくなった俺は


誰が泣いてんだろう…。




気になって


物音すら立てないように


ゆっくりと教室を覗いた。





泣いてたのは…


―――…野々瀬だった。





野々瀬は…窓に突っ立って


窓の冊子に手を置き


震えながら…口唇を噛み締めていた。






震えてるのに真っ直ぐ立って


ただ一点だけを見つめ


流れる涙を拭おうともしていなかった。





夕日に照らされる野々瀬は

いつもと違っていて…。




たったそれだけなのに―――。



俺の心臓はギューっと


掴まれたみたいに


鼓動が……止まらなくなった。






いつ


どこで


恋が始まるなんてわからない。





恋はしたいと思っても始められない。




恋はしたくなくても…止める事すら出来ない。




俺は…その意味を知ってしまった。


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