【短編】恋の魔法は聖なる夜に
 イベントの夜は……嫌い。


 “今夜は接待なんだ。ごめん”


 そんな返事が来るのは百も承知で私は誘った。今日は彼の誕生日、うちに来ないなら別れるって昼休みにメールした。で、夜になってようやく返ってきたメールがこれ。


「ふう……」


 自宅のマンション。私は手にしていたスマートフォンを見ながら、バタンとベッドに倒れた。愚痴のひとつも零したいが、そんな馬鹿げた話を聞いてくれる人もいない。だって零そうものなら“ほらね!”と得意気に説教されるのがオチだから。そう、彼は妻帯者。既婚。奥さんコドモ持ち。いわゆる不倫。

 彼と付き合うようになって2年。彼と初めて会ったのは会社の創立記念祭の打ち上げの2次会、小さなバーのカウンターだった。たまたま隣り合わせた彼と私は同じお酒の趣味に意気投合した。そしてそのまま、その夜ベッドインした。体の相性も良かったので何度か体を重ねた。付き合うって言葉こそなかったけれど、週イチで会って食事してホテルで抱き合う。恋人だと信じていた。

 ところがある日、事実を知らしめられたのだ。ラブホテルの精算機の前で彼が財布からお札を取り出したとき、白い紙切れがひらりと落ちた。私は何気なくそれを拾い上げた。ドラッグストアのレシート。


『新生児用? おむつ??』


 レシートに記載されていたのは出産したことのない私も知っている紙おむつの商品名。手元の紙切れから目線を上げて彼を見ると彼はハッと目を見開いた。そして私から目を逸らして精算機のボタンを押した。
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