秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
七章 今度こそ離さないで
 清香に『待っているから』と約束した、その日。
 ロンドンから一時帰国した志弦は、会社で残っている仕事を片づけると、ひと息つく間もなく、また空港に戻ってきていた。腕時計を確認すると、清香に告げた時刻の十五分前だった。
(よかった、間に合った)
 こんな大切なときに遅刻をして、彼女を不安にさせることだけはしたくなかった。指定したカフェでホットコーヒーを頼み、彼女の到着を待つ。

 店内は赤と緑のクリスマスらしい装飾で彩られていて、BGMもこの季節の定番ソングだ。そこでようやく、志弦は今日がクリスマスイブであることを認識する。
(クリスマスか。プレゼントくらい用意しておくべきだったか)

 清香のがっかりした顔を思い浮かべてしまい、気のきかない自分を責めた。わりとモテるほうだという自覚はあるが、実はあまり女性が得意ではない。
 彼女が思うほど〝女慣れ〟しているわけではないのだ。
(嫉妬してくれるのがうれしくて、あえて否定はしなかったけど……)
 ヤキモチを焼いていた彼女の姿を思い出すと、無意識に口元が緩む。むしろ、考えるだけでこんなに心が浮き立つ女性など、清香が初めてだ。

(ロンドンで一緒にプレゼントを選ぶのはどうだろう)
 オールドボンドストリートなら彼女に似合うものがいくらでも見つかりそうだ。もっと落ち着いたデートを楽しむなら、ノッティングヒルあたりもいい。ジュエリーならハットン・ガーデンでルースから探すのも悪くない。
(色白だからルビーやサファイアも似合うけど、もっとも彼女らしいのはやはりダイヤだろうな)
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