秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 榛名家はそこまでの家柄じゃないうえに、今は経営も危うい状況だ。清香個人だって、目を引くような美貌を持っているわけでも、抜きん出た才能があるわけでもない。自分でも言うのも悲しくなるが、〝榛名清栄の孫娘〟以外の売りはなにもないのだ。

(大河内家なら候補になりそうな女性はいくらでもいるし……)
 でも、正直少し安堵していた。立場を考えると、こちらからお断わりをするわけにはいかないが、相手に拒否されるのなら角は立たない。そうなれば、琢磨も諦めるしかなくなるだろう。

「心配するな。亡くなったとはいえ、あの家で源蔵さまは絶対的な存在だ」
 大河内家は明治から続く名家だが、今のようなグローバル企業になったのは彼の功績が大きいと言われている。源蔵は大河内家にとって、中興の祖なのだ。
「とはいっても、気は抜くなよ」
 琢磨はずいっと詰め寄ってくる。
「どんな手を使っても、昴さんに気に入られて結婚するんだ」
「そんなこと言っても相手のある話で……」
 琢磨は品のない笑みを浮かべて、急に猫撫で声を出した。
「大丈夫。俺に名案がある」

 嫌な予感しかしない。聞きたくない、そう思ったが、彼の言葉ははっきりと耳に届いてしまった。
「妊娠すればいい。跡継ぎを宿してしまえばこっちのものだ」
 清香の予想をはるかに上回るゲスっぷりを、琢磨は堂々とさらす。
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