秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 茉莉の両親は清香の親ほどうるさくはない。ここだけはというラインさえ守れば、ある程度は自由にしていいという方針だった。
 それに、彼女の今の恋人は財務省勤務の超エリートで結婚相手としても申し分ないはずだ。
「あぁ、それねぇ」
 声のトーンでなんとなく察した。詳しく聞いてみると、案の定、別れてしまったらしい。

「どうして? うまくいってると思ってたのに」
 茉莉は彼女らしくもなく言いよどむ。清香が辛抱強く待っていると、ようやくぽつりと小さく打ち明ける。
「気になる人ができたの」
 彼女は恋多き女ではあるものの、浮気や二股にはものすごく潔癖で、気持ちが少し動いただけでもその時点で別れを選ぶタイプだった。軽いのか、真面目なのか、判断が難しい。
「どんな人?」
 茉莉のことだからもうその人と付き合っている、少なくとも告白くらいはしているだろうと思って尋ねたのが、答えは意外なものだった。
「……好きになっちゃいけない人」

 ドキリとした。一瞬、自分の話をされているのかと思ってしまった。
 でも違う。これは茉莉の恋の話だ。
「まさか、妻子持ちとか?」
 大親友とはいえ、その場合は応援できない。なんとしてでも止めなくては。そう意気込んだけれど、茉莉はあっさりと首を振る。
「違うよ。けど、世界が違う人。真面目で堅物で……絶対に私みたいな女に惚れない人」
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