あなたを愛しても良いですか。

展示会3日目の最終日。

今日は朝から、いかにも不機嫌な真一の姿があった。
着物を着ている真一は、速足で歩きながら大きく裾をひるがえして、会場内をチェックしていた。

お弟子さんたちは当然ながら、真一の機嫌の悪さを感じており、言動に敏感に反応している。
何かあれば、いつも以上に怒り出すことは目に見えているからだ。
会場内にはピリピリと痛いような緊張感が走っている。


そこへやって来たのが、真一の父親である 城ケ崎 喜一郎(じょうがさき きいちろう)だった。
もちろん先代の家元でもある。

喜一郎は真っすぐ真一に向かって歩いてきた。


「真一、何を苛立っているのだ。」


真一は喜一郎の真正面に立った。


「先代だって、昨日の榎谷さんの意見はお聞きになりましたよね?これでは城ケ崎流の家元として、しめしが付きません。」


喜一郎は少しの間沈黙し、ゆっくりと口を開いた。


「お前に城ケ崎流を任せたことが間違えだったのかな。」


喜一郎の言葉に、真一は大きく目を見開いた。


「な…なにを、今さら仰っているのですか?城ケ崎流の展示会は、成功と言われているでは無いですか!」


すると喜一郎は大きく首を振った。


「お前の花には、人を動かすような感動が無い。恐らくお前の普段の考え方が出ているのだろうな。」

「父さん!」


真一はいつも人前で父親を先代と呼んでいる。
それなのに、“父さん”と呼ぶのは、かなり余裕がなく口から出た言葉だと思われる。

しかし、喜一郎はそれ以上何も言わずに、そのまま去って行ってしまった。


そして、3日間の展示会は終了した。
世間の評判は、榎谷の意見もあったが、まずまずの高評価ではあったのだ。
しかし、真一はこれ以上無いというくらいの不機嫌で展示会を終えたのだ。

榎谷の言葉や父親である喜一郎の言葉が、真一の胸を突き刺していたのだろう。



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