だめんずばんざい





「ここは私が運転する方がいいのかもね」
「覚えるよ」
「次…左へ入って…2本目を右だけど2本目までが長ーい」
「おお、この辺りは自転車通学なのか?」
「そうだよ。ヘルメット被って自転車。雨ならみんな車…高級車の送迎じゃなくて軽トラとかが結構並ぶ…ここ曲がる…運転出来るね、私」
「出来るね。帰りすればいいよ。たまには気分が変わっていいんじゃない?」
「うん」
「東京でも必要な時は乗ってくれていいよ」
「うーん…一応ありがと」
「一応どういたしまして」
「ふふっ…」
「それか、俺がいなくても、ばあちゃんか宗方に連絡すれば五百旗頭から車が来るから使えばいい」
「それならタクシー呼ぶよ」
「運転手に仕事をさせてやってよ」
「そういうもの?…ここ」
「そういうもの。到着?どこ見ても車が2台あるところが多いね」
「必需品なんだよ。ちょっと待ってね…入れられるかな…」

いつもよりお父さんの車が片側に寄せて止めてあり、お母さんの軽自動車は一番後ろまで詰めてあるから、ここに入れろということだろう。

「ごゆっくり。下りて‘オーライ、オーライ’ってしようか?」
「あははっ…いらなさそうだよ…ほらほら」
「おお、切り返し一回なら満点だね。合格」
「ありがとうございます。お疲れ様でしたぁ」

と言いながら車から降りると

「えっ…薫子がこんな大きなの運転してきたの?危ない…」

玄関から出てきたお母さんが黒い車を見ながら眉をひそめた。

「この家の近くだけだよ、大丈夫」

いつもの調子の会話なので気にならなかったけど、ガクトはバンッと彼らしくない荒い音を立ててドアを閉めた。

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