恋とも云えない
「隣いい?」

立ち飲みでビールを煽っていると、現れたのはあの男だった。

「よくないですけど、別にいいですよ」

「その言い方。本当素直じゃなくて好き」

日高と名乗った男は立つと私よりもかなり背が高かった。

「背、高いんですね」

「しのちゃんは態度もでかいんですね」

また楽しそうに一人で笑ってる。
こんな風にうまく人の間に入っていけるなら、職場でもいろいろうまいんだろうなって想像する。コミュニケーション不足は足かせにしかならないのに、どうしてもうまくいかないのだ。

「俺さ悩み聞くのうまいよ?まあ、聞いてるのか聞いてないのかわかんないって言われるけどさ、話してる方は丁度いいんだって」

「私悩みなんかありませんけど」

「悩むとか以前に自分で抱え込むタイプ?やめときなよ、病むよー?」

日高を見上げると、目があった。今日は黒ぶちの眼鏡をしている。

「ガクー、なにしてんの?一緒に呑もうよ!」

後ろからきれいなお姉さんが声をかけてきた。日高はお姉さんの腰に手を回し、もちろん、わかってるを繰り返して、またねと奥のテーブル席に消えてしまった。お姉さんは去り際に私を品定めしてた。

女って怖い。
そんな女を手懐けてる日高も怖いけど。
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