たとえこの世界から君が消えても
「…あ」



拾い上げた本は、私の一番大好きな小説だった。



ー『陽菜先輩』



ばっと振り返るが、後ろには誰もいない。


だけどたしかに今、誰かに名前を呼ばれた気がした。



「あれ…?」



涙がとめどなく溢れてきて、視界がぼやける。


どうして私、泣いているんだろう…?


理由のわからない苦しさに、胸が締めつけられる。



何かを思い出せそうで、思い出せない。


私は何か大切なことを忘れている気がする。



ー『…あんた、名前は?』



誰…?



ー『ああ、二年生なんですか』



あなたは…誰なの?



ー『ははっ、すみません』



「…ふっ…っ」



その場に座り込み、止まらない涙と嗚咽に必死に耐える。


大好きな声のはずなのに。大好きな笑顔のはずなのに。


それが誰のものなのか思い出せない。



ー『俺は陽菜先輩のこと好きですよ』



大嫌いだった私を好きだと言ってくれた君が、私も好きだったのに。



「うぅ…っ。うわぁぁぁ…っ」



私の中から消えてしまった君は今、どこにいるの…?
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