ぼくらは薔薇を愛でる
 街での体験を終えた15歳の春、高位の貴族令息令嬢が通う学園へ入学した。学園は王都の端にあり、本来なら城から王子として通うべきのところ、またしてもレグは『王子という事は隠して暮らしたい』と熱望したため、『レグ・ジョンブリアン』の名をそのまま使うことになった。

 学園側からは、当然反対意見が出た。わがままを許すのか、と。だが「身分関係なく信頼できる者を見極めたい」という思いに学園側が折れ、卒業まで他の生徒と同じ扱いを約束してもらった。

 レグは入学してすぐ、クラウド、ゼニス、マルーンの3名と意気投合した。昼休みに4人で昼寝をしていて授業に遅れたり、学園の庭の端にある東屋で「例えば旅に出るとしたらどんな旅がしたいか」について談義をしていたら楽しくなり盛り上がっていたら午後の授業をサボった事になり叱られた。罰として図書室の本整理と床掃除もした。他の生徒からは、またあの4人、問題児、と言われ続けたが、彼らは構う事なく楽しんだ。
 卒業したら成人として社会に出るという自覚が足りないと教師から何度も叱られた。4人は殴り合いの喧嘩もした事もあるし、だが4人でなければつまらない。その仲は卒業まで続いた。

 本当はもう一名、当初仲が良かった者が居たが、彼は口が軽かった。何度言っても、あちらこちらから仕入れた噂話を得意げに話して来た。という事は、こちらの事もどこかで話しているかもしれない。話をくれてやるからあの4人の素性を教えろ、と言われでもしていたらそれこそ内通者だ。
 そんな彼に対して、信頼するに値しないと判断したレグはもう付き合わないとはっきり告げて以来、一切絡むことが無くなった。学園を去ったのか無事に卒業するのか、そしてどこの家の者かもわからないが、姿を見なくなった。

 あと数週間でに卒業という、まだ少し寒さの残るある日、レグは3人を屋敷へ呼んだ。そこで、実は、と身分を明かした。

「実は、俺は知っていた」
 と言ったのは、ゼニス。父親が宰相を務めており、レグは父親と面識がある。王子が偽名で学園に通うことを入学前に聞かされていたと明かしてくれた。だから誰が、と気にはなっていたが、まさか共に自由に過ごしていたレグがそうだったとは思わなかったらしい。殴った事もあるのに、と笑っていた。

 「なんだ、ゼニスもだったの? 俺も親父から同じ話を聞いてたよ。だからもし何か学園内に不穏が生じた時は、王子を見極めてお守りしろと言われていたんだ」
 クラウド・ライムライトも言った。彼の父親は王国騎士団団長で、先祖には王の護衛として仕えた者も居たくらいだ。クラウド自身も、機会があれば王子を、そして即位した王の護衛として動けるよう、鍛錬を欠かさないのだと話してくれた。そんな姿は、この3年で一度も見たことがなかった。確かにクラウドは背も高く、力強い。なるほど、と皆が納得した。

 ここでもう一人が声を出して笑い出した。
「あっはっは! みんなそうとは知らずに王子のそばに居たわけだ」
 彼はマルーン。星読み塔を代々護る一族の本家の長子だ。
 星読み塔は、空の変化や星の位置などから気候を読み取って、あるいは国中の地形を調べ尽くして記録し防災にもつながる助言をするなど、国土に欠かせない機関だ。マルーンは王子が居ることは知らなかったらしい。

「レグはガサツそうに見えてとても丁寧な字を書くし、手も髪も手入れされていると思ってた、でもそれだけで、まさか王子とは思わなかったや〜」
 呑気に笑った。

 レグは彼らの話を聞きながら、やはり3年過ごして築いた関係は確かなのだとしみじみ思った。
 たまたま同じ場所に集った者同士で、家柄や身分も明かさずに過ごしてきた。それがこうして身分を明かしてみれば、それぞれが同じ秘密を抱えていた事がわかった。

 ――彼らとなら、と気持ちを固めた。

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