ぼくらは薔薇を愛でる
 高位貴族の令息は、生まれてから一歳になるまでに、親戚から、瞳と同じ色のベビーリングを贈られるしきたりがある。レグホーンも己の瞳と同じ色のリングを、母側の祖父母から誕生祝いにともらっていた。だがあまりにも小さいため、指にはめるというよりは革紐に通し首飾りとして肌身離さず身につける。
 大人になり、恋人ができたり婚約者が決まれば、相手にそのリングを渡す。これはもう"婚約の予約"のようなもので、これを持っている令嬢への求愛はもちろん求婚もしてはならない、そんな暗黙のルールがあった。

 だから、王子がそのリングを令嬢に渡しているということは、彼女はすでに妃候補になっているということで、国の将来にも関わるため宰相がこの辺りを心配してきた。

「殿下、そのご令嬢はウィスタリアのどちらにいらっしゃるのでしょうか、リングを受け取られたとの事ですが、その意味をご令嬢はご存じなのですか? ウィスタリアにそのような風習があるとは聞いたことがありませんので、もしかしたら既に――」
「ウィスタリアのどこにいるかはわからないが、家名なら知っているから、現地で探すつもりなんだ。宰相の懸念は解る。既に婚約者が居る可能性もある。それも含めて、自分の目で見て納得したい。ゼニスにも言われたが、国の力を使えば明日にでも彼女の居場所はわかるだろう。だがそれでは彼女の意志を尊重できない。私が彼女を見つけて、妃にと告げたいんだ。王子のわがままを許して欲しい。だから宰相達は動かないで欲しい、頼む」
 レグホーンは頭を下げた。

「承知いたしました――ゼニス、殿下をよくお支えするように。もし殿下が道を違えたら諌めるのもお前の役目だ。そしてご令嬢を見つけた暁には、お前はお前の仕事をして戻って参れ」
 レグホーンの隣に立つ息子に向けて言った。宰相補佐として仕事を割り振った経験は必ずや役に立つ。

「クラウドもだ、お前はゼニス殿よりもより実戦に近い腕を持つ。殿下の盾となってお守りするのだ。有り余る力を使って来い」
 体力お化けの親子は、ガハハと笑い合いながら互いの胸を小突き合う。旅の間も寝る前と起きた時は剣を振って鍛錬を欠かさないこと、無理と思ったら殿下を担いででも危険な場から立ち去るよう付け加えれば、マルーンの父親も同様に息子へ向けて言った。
「お前の持つ星導師としての知識を旅で活かしてこい」
 そして、旅立つ息子達4人に向けて続けた。

「――経験する事に何一つとして無駄はないと思いなさい。そして、旅先では他者への礼を尽くさぬこと。結論を急がせる上手い話には乗らないこと。それから」
「まあまあ、息子たちもわかっているだろうから父親の我々は信じてやろう。彼らはきっと大丈夫だろう、ほら」
 王の視線の先をみれば、4人でわいわいと話し始めていて、親の話など聞いてる風ではなかったが、楽しそうな様子に、旅に出す心配は薄らいでいくのを皆は感じた。

「ですな」
「我々はここで、近い将来の準備をして彼らの帰りを待つといたしましょう」

 無事に学園を卒業した4人は、卒業した翌日の朝早くに城へやってきた。王と王妃、それから供の3人の父母達に挨拶をして城を出た。

 妃探しの旅が始まった。
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