ぼくらは薔薇を愛でる

 その日、騎士団の寮にいるジョブズのもとに、一通の手紙が届いた。差出人はライムライト侯爵、彼の父親だ。

 ――――次の休みには必ず帰ってくるように。ライムライト家の存亡がかかっている。

 たった一行の短いもので、ジョブズは大きなため息を吐いた。

 何せ次の休みの日はエクルの街歩きが予定されているから、ただの帰省だったなら当然、エクルの用事を優先させたいところだ。だが、『ライムライト家の存亡』とまで言われたら帰らざるを得ない。ライムライト次期当主のジョブズにとって果たす義務はあり、家の存亡、と言われたら無視はできない。

「はあ……エクル様には代理の騎士を……誰がいいだろう、エクル様に不用意に近づかず、媚を売ったりせず、色目を使わず、エクル様をお守りできるだけの体力があって――」
 同僚の顔を一人一人頭に浮かべた。しかも街歩きには扮装しないとならず、ジョブズと背格好の同じくらいの者でなければ着られない。となると――。

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