捕まえたの、俺だから。



さっきまで黒いオーラを纏わせてたのなんて嘘みたい。


無意識に込められていた肩の力を抜いていると、こそこそと話す声が前方から耳に届いてきた。


話しているのはつい先ほどこちらを見て慌てていた後輩で。


また地雷を踏む可能性があるのに、性懲りもなく話し続けるのが一周回って凄い……。


「お前、俺たちがなんでまどか先輩って呼べないか、知らないのかよ」

「え、なになに?本人が嫌がってるからとかじゃないの?」

「ちげーよ。そんなの直が―――」


「―――ねぇ、聞こえてるよ」


真っ黒な直くん、再降臨。


今度は微笑んだままに笑んでいない声を投げた。余計に怖い。


後輩たちはもちろん速攻口を閉ざし、ぴしりと石像のように硬直してしまっている。


……卒業間際に、新しい直くんを見ちゃったよ。


「まどか先輩、あっち行こ!」

「う、うん」


戸惑いながらも結局こんなことじゃ直くんを嫌いになんかなれない私。


それどころかブラック直くんもいいかもなんて思うのは、直くんの全部が好きだからなんだろう。


これは想いを消化するのにとてつもない時間がかかりそうだなぁ……なんて、直くんの背中を追いながら苦笑いを零したのだった。


< 14 / 24 >

この作品をシェア

pagetop