雨の降る夜は
梅雨が明ければ本格的に夏。雨も暑さも悩ましい七月半ば。課内の人事異動で送別会があった。強制ではないけど忖度。一次会だけ参加した。

何となく流れで駅まで一緒だった男性社員の菊池さんは、路線が同じで最寄り駅は私より四つ先だった。親切で『送ろうか?』と気遣ってくれたのを丁寧に断り、挨拶をして自分の駅で降りる。

夜の九時を回っていても、改札を出る人波はそれなりにあった。蒸す夜気にまとわりつかれながらアパートに向かって足早に。

「牧野さん・・・!」

ふいだった。後ろから名前を呼ばれ、同時に腕を引かれて思わず小さく悲鳴を上げた。

「あ、ゴ、ゴメンっ。その、やっぱり送ろうと思ってさ?」

知った声。立っていたのは、少し息を切らせた菊池さん。
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