先生、私がヤリました。
「先生、部活は?」

顎をクイっとするみたいにして、先生は窓のほうを示しました。
雨が降っていました。
さっきまでは晴れてたのに。

「えー。傘持ってきてないのに。」

「通り雨だろ。」

「そうかなぁ…。部活中止したんですか?」

「筋トレさせてる。」

「へぇ。…で、先生は?」

「あー、忘れ物思い出して。取りに来たんだ。」

先生はそう言って、教卓からちょっと離れた所の、窓際の先生用の机に行きました。
生徒の木の机と違って、あれは多分スチール製で、大きいやつです。

先生は机の中をゴソゴソ探すようにしてから、顔を上げました。

「ありました?」

「いや、無い。やっぱ鞄に入ってたのかもなぁ。」

「何探してるんですか。」

「書類だよ。書類。」

「へぇ。」

先生は気まずそうに頭を掻いてました。
私の机に近付いてきて、ブックカバーを手に取りました。

「あとちょっとじゃん。」

「はい。もう終わります。」

「糸、黄色いな。」

「…はい。生地が黄色なので。」

先生はブックカバーを摘んで、ぷらん、と糸を垂らしました。
その先には針が繋がっていて、ゆらゆら揺れてました。

「糸で繋がるって、なんか強制的に赤い糸って思っちゃうよな。」

「そう…ですか?」

「あれ、お前って意外とロマンチストじゃないのな。」

先生が私を見て笑っています。
言った通り、通り雨だったみたいで、雨は上がって、西陽が差してきました。

「先生、雨、やんでる。」

「あー…。」

「先生?」
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